雨のあとに虹 その144 | 開運童子のブログ

雨のあとに虹 その144

 貴志はびくびくしながら自分の席に座っていた。貴志は山本があんなに強引な改革に出てくるとは思わなかったのだ。周囲を見れば三友商事の社員の大半はまじめにきちんと仕事をしていた。貴志や田所のような社員がいたという事実が問題なのである。貴志はフロアーの隅で別の部署にいる中村が話をしているのを聞いた。

「山本取締役の鶴の一声で僕が総武との提携の実務をとる事になりました。」

中村が言うと須藤が

「それはおめでとう。」

と言って中村を見た。

「だけど責任者が田所課長ですよ。」

中村は迷惑そうな顔で言った。

「あの田所課長なら私も嫌だよ。」

須藤は言った。

「僕も同じ課長に昇格したけど素直に喜べないですよ。」

中村は言った。貴志の耳には中村を声がはっきり聞こえていた。

「それは最悪だね。」

須藤は言った。

「落ち込むような事を言わないでくださいよ。」

中村が言うと

「田所は性格が悪いからね。」

須藤は言った。

「成果がでたらすべて自分の手柄にしますよね?」

中村が言うと

「田所ならやりかねないね」

須藤は言った。

「そうですよね。」

中村が言うと

「田所みたいな奴は大嫌いですよ。」

須藤は言った。

「それから貴志も嫌な奴ですよね?」

中村が言うと

「あんな奴は早く解雇しないと会社全体がおかしくなるよ。」

須藤が言うと貴志の頭を須藤の言葉が響いていた。

「それは本当なの?」

ひとみは驚いて言った。久美子から俊之の話を聞いて信じられない気持ちと納得した気持ちが交差していた。

「間違いないと思います。」

久美子は言った。

「そんなかわいそうな事ってあるかしら?」

ひとみが言うと

「高校時代からのお友達である矢島さんが言う事だから間違いはないと思います。」

久美子は言った。ひとみは

「私は何も気づかなかった。」

と言った。

「私は俊さんと最初に話をした時に心を開いていないように思いました。」

久美子は言った。

「高村さんのどこを見てそれが解ったの?」

ひとみが言うと

「微笑みを浮かべても目だけはすべてをあきらめているように感じました。」

久美子は言った。

「堀川さんには高村さんの心の奥にある影が見えたのね。」

ひとみは何かを思い出すように言った。

「今でも少し残っていますけど以前から比べると明るくなりましたよ。」

久美子が言うと

「人はみんなそれぞれ事情があるからね。」

ひとみは言った。

「みんなそれぞれの事情を抱えて必死に生きているのが人生かもしませんね。」

久美子が言うと

「私も施設で育ったからね。」

ひとみは言った。そんなひとみを見て久美子は

「矢島さんのような存在がいてくれると救われた気持ちになりますよね?」

と言った。

「これからは堀川さんが矢島さんと協力して高村さんの支えになればいいのよ。」

ひとみは言うとはじめて俊之と久美子を心底から応援しようと思ったのである。

 直子が珈琲を口に運んだ時に弘子が入口から入って来た。そんなに広い喫茶店ではないからすぐに直子の目に映った。

「お待たせ。」

弘子は悪びれる様子もなく直子に一言だけ言った。

「よろしくお願いします。」

直子が一言だけ言うと

「お金は出来た?」

弘子は手短に言った。

「出来そうですがもう少し時間をください。」

直子は慎重に言葉を選んで言った。

「困ったわね。」

弘子が言うと

「お金が出来たら振込みで良いですか?」

直子言った。

「仕方ないわね。」

弘子が言うと

「銀行の方が安心ですからお願いします。」

直子は言った。

「お金が出来たらここに振り込んでね。」

弘子は銀行口座の詳細をメモ帳に書くと破り取って直子に渡した。

「本当にこれでメジャーデビューが出来きますよね?」

直子は心配になって言った。

「心配しなくても大丈夫よ。」

弘子は短く言った。