雨のあとに虹 その140
沢田は榊原から少し離れた所にいた。ひとみとどんな話をしているかは解らなかったが深刻な話であるのは容易に解っていた。以前は沢田も榊原の支持でいろいろな情報を手に入れたていたが年末から山本が沢田に直接指示を出すようになっていた。会社員にとってはよくあることで仕方がないのである。沢田には複雑な思い頭を占有していた。
「これも辛い役目ですね。」
翔太が言うと沢田は振り向いて立っている翔太を見た。
「お前がどうしてここいるのだ。」
沢田は言った。沢田は翔太が立っている事に違和感がなかった。
「沢田さんも僕と共闘しませんか?」
翔太が言うと
「共闘とはどういう事だ?」
沢田は驚いて言った。沢田は翔太素性が解らなかった。
「僕が持っている情報であなたが必要なものは提供します。」
翔太は言った。
「うまい話をだけをするなよ。」
沢田が言うと
「その代わりに逆もお願いしますよ。」
翔太が言うと沢田は
「構わないが俺は会社員だから立場もある。」
と言った。
「それは解っています。」
翔太は言った。
「俺は会社を辞めるわけにはいかない。」
沢田が言うと
「あなたの立場が悪くなるような事は絶対にしません。」
翔太は言った。この駆け引きは翔太の勝ちであった。
久美子を乗せた電車はビルの谷間を走っていた。駅と駅の感覚が狭いので次の駅まではすぐに着いた。乗客が乗り降りするとすぐに電車は走り出す。日が暮れるとドアのガラスに久美子の顔が映し出されていた。久美子は自分の顔の向こうに見える景色を見ていた。
「遅くなってしまってすみません。」
俊之は笑顔で言った。静かな落着いた雰囲気のショットバーである。春香が先に来ていてグラスを傾けていた。
「私も来てからそんなに時間は経っていないから気にしないでね。」
春香は言った。俊之は春香の前に座って春香を見た。春香も俊之を見ていた。
「ゆっくり会えるのは3年ぶりだね。」
俊之は言った。
「3年の時間は長かったわね。」
春香は言った。
「先日は驚きましたよ。」
俊之は言った。
「高村さんには本当に申し訳なくてせめてもの罪滅ぼしと思って父に頼んだのよ。」
春香が言うと
「麗子さんの件は春香さんのせいじゃないよ。」
俊之が諭すように言った。
改札口を出た久美子は自宅の方向へ歩こうと赤信号を待っていた。少しの時間が過ぎて信号が青に変わると久美子は歩き出した。久美子が歩いていると黒い自動車が車道を走って来て久美子を追い越してから止まった。自動車のドアが開いて矢島が顔を出して
「こんばんは!」
と言った。久美子は驚いて
「矢島さん!」
と言った。
「先日はすっかりご心配とご迷惑をかけたね。」
矢島が大きめの声で言った。
「気にしないでください。」
久美子は言った。江紫組の件では翔太や関口が慌てていて久美子には状況が解らないうちに事が終わっていたのである。
「あの時はすっかりお世話になってしまったね。」
矢島が慣れない言葉を使ってぎこちなく言うと
「私は何もしていないからかえってお互い様と言う事にしてください。」
久美子は言った。矢島は少し強面な部分があるが気さくな性格であった。
「時間あれば食事でもどうですか?」
矢島が言うと久美子は矢島の目を見た。
「矢島さんは俊さんのお友達でしたね。」
久美子が言うと
「あの時にはすっかりお世話になったので高村の話でもしたいね。」
矢島は言った。