雨のあとに虹 その136
「私がハンドバッグとブローチで迷っていたらね。」
久美子は言った。
「両方は買えないよね。」
純子は言った。
「長い時間をかけて迷ってハンドバッグを母にプレゼントする事に決めたのね。」
久美子が言うと
「それは仕方がないよね。」
純子は言った。
「あとでそのあきらめたブローチを俊さんがプレゼントしてくれて嬉しかった。
学食で昼食をとりながら久美子は純子に言った。
「高村さんもやる時にはやるね。」
純子は感心したように言った。
「俊さんは鈍感なところがあるから笹川さんが教えたのかもしれない。」
久美子はしっかり見抜いて言った。
「それは可能性が大きいね。」
純子が笑みを浮かべて言った。
「笹川さんはどんな小さな点でも見逃さない鋭いところがあるからね。」
久美子は言った。久美子は翔太の素性を純子に教えるわけにはいかなかった。
「高村さんは謎があるわよね?」
純子は気がついたように言った。
「私も最初は純子と同じに思ったよ。」
久美子が言うと
「実は大物だったりするかもね?」
純子が確信をついて言った。
「今度から総武グループのトップに立つみたいよ。」
久美子が本当の事を言うと
「それはありえないよ。」
純子は言った。
「お呼びですか?」
田所は言って役員室に入って来た。山本は
「座りたまえ。」
と言って田所に椅子を勧めた。
「改まって私に何でしょうか?」
田所はやや緊張気味でいった。山本は田所の目を見て
「田所くんは優秀な人材だと今更ながら気づいたよ。」
山本は田所を安心させるように言った。
「それほどでもないですよ。」
田所は恐縮して言った。
「自分の仕事は余裕で成果を出してまったく関係ない他人の行動も管理する余裕があるとは私も見習いたいよ。」
山本は嫌味を込めて言ったが田所はそれに気づいていないようである。
「それほどでもないですよ。」
田所は照れながら言って山本を見た。山本はさらに追い討ちをかけるように
「そんな優秀な社員に今の仕事をさせておくのは会社にとって大きな損失だと気づいたよ。」
山本が言うと田所は
「私も同じ事を考えていました。」
と言った。山本は
「それなら話が早い。」
と言うと田所は
「取締役もやっと僕を評価してくださいますか?」
田所が言うと
「私も役員だからしっかり見るべき所は見させて貰ったよ。
山本が言うと
「恐縮しています。」
田所が言った。
「それで明日から特命の仕事をしてもらう事にしたよ。
山本は含みを持たせて言った。
「特命とはどんな仕事でしょうか?」
田所は山本の目を見て言うと
「総武グループとの提携交渉責任者だよ。」
山本は爆弾発言を言った。
「僕が交渉責任者ですか?」
田所は嬉しくなって言うと同時に頭は真っ白だった。
「高村くんが在職中に総武とのコネクションがあって交渉していたが退職した時点で白紙に戻っていた案件だよ。」
山本は言った。田所は自分が置かれている立場が解らなくなっていて
「そうですか?」
と言うのがやっとだった。
「年末から総武側から交渉を再開しても良いと言って来きたから再会する予定だよ。
山本は言った。
「私には荷が重いですよ。」
田所が言うと
「うちとしては願ってもないチャンスなのは解るね。」
山本が言うと
「解ります。」
田所は言った。
「しっかり頼むぞ。」
山本は言った。
「私に出来るでしょうか?」
田所は自信なく言うと
「出来なかったら責任をとってもらうだけだよ。」
山本は言った。田所は思わず自分の耳を疑っていた。
「三友商事に悪口だけを言って給料をもらう社員はひとりもいらないからね。」
山本は田所に言った。