雨のあとに虹 その135
三友商事の本社は活気がある部署とない部署がある。山本は沢田に命じて榊原の健康状態の把握に努めていた。どこかに病気があるのなら会社を休ませて治療させなければならない。仕事をしても生命を失っては本末転倒になるからだ。ここ数ヶ月間は監視とも言えるほど動きを細部にわたって観察している貴志と田所の行動も気になっていた。山本は何気ない顔をしてフロアーを見て回った。貴志の席を見ると離籍中である。近くにいた須藤に
「貴志部長はどこにいるの?」
と山本が言った。
「今日も連絡がないみたいです。」
須藤が言った。
「無断欠勤と言うことかね?」
山本が言うと
「週に半分位しか来ていませんね。」
須藤が言った。
「困った奴だ。」
山本は言った。
「これは珍しい事ではありませんよ。」
須藤が言った。山本は続いて隣の部署に行くと田所の声が聞えてきた。
「須藤さんは会社を出たあとは取引先に行かないで映画を見て遊んでいるみたいだよ。」
田所が大きな声で言った。
「そうですか?」
中村は言った。田所の低レベルの話は嫌いであったが返事をしながら自分の仕事に戻っていこうとしていた。
「あのように無能な社員なら会社に要らないですよね。」
田所はわざと大きい声で言った。山本はこの辺で引導を渡さないと職場全体の士気に関わると思ったのである。
「田所課長。」
山本が言うと田所は驚いたように山本を見た。
「あとで私のところへ来てくれ。」
山本はいつになく大きい声で言った。
俊之は矢島建設を後にすると電車に乗って都心部へ来ていた。今日は数人と交渉しなければならない予定があった。駅に着くと混雑していた。俊之が待合わせの喫茶店に入ると未来は先に来ていた。
「お呼び立てしてすみません。」
俊之は急に時間を作ってもらった未来に恐縮して言った。
「高村さんのお願いなら仕方ないわよ。」
未来は言った。
「そう言われると気が楽になりましたよ。」
俊之が言うと
「仲間だから困った時には当たり前よ。
未来は言った。
「悪い話ではないですけどね。」
俊之が言うと
「急にどうしたの?」
未来は言った。
「結論は急がないから前向きに考えてほしい事がありましてね。」
俊之は言った。
「講義が終わるのが早かったね。」
純子が久美子に言った。
「大川教授の話が面白かったからじゃないの?」
久美子が言った。久美子は講義のやり方が変わって大川教授がこちらの興味を引くしゃべり方をしたのに気づいていた。
「そう言えば今日の大川教授は笑顔だったね。」
純子が言うと
「いつもと違っていたね。」
久美子は言った。
「いつもはむっとしていたのに何か良い事でもあったのかな?」
純子もしっかり観察して言った。
「お昼に行かない?」
ちょうど学食の前に来たところで久美子が言った。
「お腹すいたね。」
純子が混雑している学食を診て言った。久しぶりに見る純子が元気になったのを見て久美子は安心していたのである。
直子は弘子に電話をかけていた。呼び出し音が鳴るが弘子はでない。呼び出しが長く続いてやっと
弘子が
「はい。」
と言った。
「斉藤さんですか?」
直子が言うと
「斉藤です。」
警戒したような声で弘子は言った。
「久保田直子です。」
直子が言うと急に大声になって
「先日お目にかかった久保田さんね。」
弘子は言った。
「お金の件ですけどね。」
直子が言うと
「決心はついた?」
弘子は単刀直入に言った。
「本当に80万円でうまく行と思って間違いないですか?
直子は言った。80万円という金額は直子にとって大金だからどうしても慎重になは大金だ。慎重になる。
「当たりじゃない。」
弘子は直子を馬鹿にしたように言った。
「それなら心配は要らないですね。」
直子が言うと
「私には強力な人脈あるのよ。」
携帯の向こうで弘子が言った。
「すべて私に任せてくれれば悪いようにはしないわよ。」
弘子は言った。話が終わって携帯を切る弘子は都心の駅ビルの中にいたのである。周囲をどんなに警戒していても関口たち3人が交互に尾行している事までは気付かなかった。