雨のあとに虹 その116
「榊原さんもそうですけどね。」
久美子は言った。
「何ですか?」
翔太が言うと
「その貴志さんも田所さんも許せない。」
久美子は言った。
「私も同じ気持ちですよ。」
翔太が言うと
「何人の人生が狂ったと思っているの!」
久美子が怒って言った。
「そうですよね。」
翔太が言うと
「死者まで出しているのよ。」
久美子が言った。
俊之はもちろん翔太もひとみも関口たち若者も久美子の迫力に圧倒されそうであった。
「僕もそう思います。」
関口も周囲を見ながら言った。その時に沈黙を破って俊之の携帯が再び鳴ったのである。
「いけない。」
俊之が言った。
「どうかしましたか?」
翔太が言うと
「育子さんにメールを返信していなかった。」
俊之は携帯を見ながら言った。
「お正月と言っても楽しいのは子供くらいで大人になるとそうはいかないな。」
矢島はリビングで寛ぎながら妻の早苗に言った。
「仕方がいないですよ。」
早苗は言った。早苗はさめた言い方に聞こえるが早苗は冷静なだけで決して冷たいわけではない。
「今更凧上げしてもしょうがないからな。」
矢島は言った。
「上げてみたら?」
早苗が言うと
「やめておこう。」
矢島は言った。
「何か飲みますか?」
早苗が言うと矢島が
「ビールにするか。」
と言った。その時玄関でチャイムが鳴った。
「お客さんね。」
早苗が言いながら玄関に行ってドアを開けると緊張した田崎が立っていた。
「新年おめでとうございます。」
田崎は勤めて明るく言った。
「育子さん。」
俊之は電話で言った。
「新年おめでとう。」
育子は心配したような声で言った。
「申し訳なかったね。」
俊之が言うと
「それは構わないけどね」
育子は言った。
「ご心配には及ばなかったよ。」
俊之は言った。
「それなら安心だわ。」
育子が言うと
「少しだけ危なかったよ。」
俊之が言うと
「私の霊感は当たるからね。」
育子が笑いながら言った。
「今度会った時にゆっくり話すよ。」
俊之は言った。
「高村さんが無事ならそれでいいよ。」
育子が言うと
「そのうちに食事でもご馳走させてよ。」
俊之は言った。
「そんな事は気にしなくていいよ。」
育子が言うと俊之は
「心配してくれる人が居るのはありがたい事だよ。」
と言った。俊之は育子への感謝の気持ちを言ってから電話を切った。翔太は和んだ雰囲気の周囲を見て
「緊張したら疲れましたね。」
と言った。
「今日は元日なのに疲れましたね。」
関口が言った。
「うまいものでも食べに行きませんか?」
翔太が言うと
「いいですね。」
久美子が言った。
「それではみなさん行きましょう。」
翔太が言うと
「怒ったらお腹が空いたみたい。」
久美子が言った。
「石倉さんも一緒にね。」
俊之がひとみに言った。一同は喫茶店を出て歩き出していた。久美子は俊之の手を取って強く握り締めてきた。俊之は驚いて久美子の方を見たが久美子は
「俊さんの悪いくせは自分ひとりで全部背負い込む事ね。」
と大人っぽく言った。