雨のあとに虹 その91
「今日はあまり忙しくないね。」
ひとみは久美子に言った。
「年末で忙しい人が多いからでしょうか?」
久美子は言った。トレンドカフェだけでなく他のフロアーも客の入りは少なく見えた。そろそろ御用納めも近くなっている時期である。珈琲をゆっくり飲む時間がない人が多いようだ。そう思っているとひとりの男性客が素早い身のこなしで店に入って来た。
「いらっしゃいませ。」
久美子が言って顔を向けると俊之が立っていた。
「サンドイッチとブレンドをね。」
俊之が言った。
「急にびっくりしましたよ。」
久美子が言うと
「最近ここに来ていないからたまにはと思ってね。」
俊之が言った。
「仕事は大丈夫ですか・」
久美子が言うと
「それに久美ちゃんに渡したいものがあったからね。」
俊之は言った。俊之の言葉はいつものようにさわやかであった。
「自分の親も兄貴も姉貴も医者です。」
関口は電話の向こうで翔太に言った。
「そうだったか。」
「自分だけが道を外れました。」
関口は行った。
「すまないが調べられるか?」
翔太が言うと
「任せてください。」
元気よく関口が言った。翔太も気を使って
「後で埋め合わせをするよ。」
と言った。
「これも久美子さんのためになりますよね?」
関口は言った。
「なるはずだよ。」
翔太が言った。
「それなら任せてください。」
関口は言った。
「やっとお客さんが多くなってきたね。」
ひとみが休憩を終えて戻って来て言った。
「さっきまでお客さんが少なかったですね。」
小百合が言った。ひとみが店内を見ると俊之が墨の席に座っているのが見えた。
「堀川さんの彼氏が来ていますよ。」
小百合が久美子をからかうように言った。
「ちょっと変な事を言わないでよ。」
久美子は顔を赤くして言った。
「顔が赤くなっているよ。」
小百合が言うとさらに久美子の顔が赤くなった。
「やめてくださいよ」
久美子は言った。
「もうその辺にしておいたら?」
やっとひとみが助け舟を出して言った。
「俺の何をかぎ回っている?」
いつの間にか榊原は翔太の後ろに来て言った。その声は怒鳴るような声であった。
「それはお互い様ですよ。」
翔太は冷静に言った。
「お前は高村の味方らしいな?」
榊原は言った。
「敵味方などと言っている場合ではないでしょう?」
翔太が言った。
「それはどういう事だ。」
冷静さを失って榊原は言った。
「高村さんとあなたでは器が違うのです。」
翔太は言った。
「何だと!」
榊原が言った。
「最初から勝負にはなりませんよ。」
翔太は冷たく言った。
「ごちそうさま。」
俊之は言った。
「ありがとうございます。」
久美子と小百合が声を合わせて言った。
「その辺を見ているから終わったら電話をくれるかい?」
俊之が言った。
「はい。」
久美子が言うのを小百合がしっかり観察していた。ひとみは別の仕事に打ち込んでいるので見えなかった。
「あとでね。」
俊之が言って出て行った。
「30分は長く感じるね。」
小百合は久美子に言った。