雨のあとに虹 その48 | 開運童子のブログ

雨のあとに虹 その48

「お姉ちゃんはイブに帰って来るかな?」

堀川詩織は母親の堀川知子に言った。

「久美子はアルバイトでイブは帰れないって電話があったよ。」

知子が言うと

「イブは帰れないの?」

詩織は言った。

「正月なら帰れるみたいよ。」

知子が言った。

「イブにアルバイトってお姉ちゃんも大変だね。」

詩織が言った。

「詩織も年が明ければ高校3年になるのよ」

知子が言うと

「もうすぐ大人の生活の仲間入りだね。」

詩織が言った。

「高村さんですか?」

俊之の携帯の向こうで桑田は言った。

「そうです。」

俊之が言う。

「天門先生の紹介で電話をさせていただいています。」

桑田が言うと

「天門先生からお話は聞いています。」

俊之は言った。

「連絡が遅くなってすみません。」

桑田が言った。

「僕の方はいつでも予定を調整できますよ。」

俊之は言った。

「実は他の人を先に取材をさせていただいていましてね。」

桑田は言った。

「取材は人数が多いから大変でしょう?」

俊之が言うと

「そんな事はないですよ。」

桑田は言った。

「僕でよろしければ出来るだけの事はさせていただきます。」

俊之が言うと

「高村さんはラストでかっこよく書く予定ですから期待していてください。」

桑田が元気よく言った。

「そうですか?」

翔太は都心のビル群の谷間で電話をしていた。翔太の横には関口も居て翔太を見ている。

「年が明けたらいよいよ帰国だから楽しみだわ。」

電話の向こうで白仁春香が言った。

「それは待ち遠しいです。」

翔太は言った。

「高村さんは元気にしているかしら?」

春香は言った。

「高村さんはいつものように元気です。」

翔太は言った。

「高村さんの誤解を解く目途はどうなの?」

春香が言うと

「遅くても年明けにははっきりさせるつもりです。」

翔太は言った。

「帰国したらすぐに会いましょう。」

春香が言う。

「それでは年明けのご帰国をお待ちしておりますよ。」

翔太は言って電話を切った。

「笹川さん!」

関口が言うと

「年内に片付けないといけない事がひとつあったぞ。」

と言った。関口は翔太が言いたい事を悟っていた。次の瞬間には翔太と関口は人混みの中をすばやく走って消えて行った。

 ひとみは考えていた。入江麗子が亡くなったのは俊之がロンドンに赴任した時に他に女性が出来て麗子を棄てた事が原因だと榊原から聞かされてきた。榊原の説明に真実味が多く含まれていた。だから当初からそれを疑わずに高村俊之という男を憎み続けてきた。俊之には逆に棄てられた悲しさを思い知らせるつもりで久美子に俊之と親しくなるように言った。そんなに単純に結果が出るものではないのは解っていた。

「恨みは今でも忘れない。」

ひとみは呟いていた。ここに来て誤算がふたつあった。ひとつは思ったより久美子が俊之に対して好意的である事だった。そしてもうひとつはひとみ自身も俊之がそんなに悪い男には見えなくなる時が多くあるのだ。周囲の店員に俊之の事をそれとなく聞いても

「良い人だと思いますよ」

と全員が同じく俊之には好意的である。それなら久美子を突飛ばすように近所の主婦に頼んだあの時からの自分の行動には意味が無いように思えてきたのだった。