雨のあとに虹 その40
俊之と翔太を乗せた乗用車は深夜の道路を滑走している。翔太は無言の俊之に対して
「僕に聞かなくて良いのですか?」
と言った。
「何を?」
俊之は言った。
「どうして僕が車で迎えに来たのかという理由ですよ。」
翔太が言った。
「聞いたら素直に答えてくれるかい?」
俊之は言った。」
「今はダメですね。」
翔太は言った。
「いずれ解かる時が来るだろうからその時を楽しみにしているよ。」
俊之は言った。
「すみません。」
翔太は言った。
「それよりも久美ちゃんを見つける事が先だよ。」
俊之は言った。
「もう少しスピードを出しますよ。」
言って翔太はアクセルを踏んだ。
久美子は暖かい缶珈琲を手に持っていた。飲むのではない。こうして手に持っていると暖かいのだ。急におかしな行動を取った自分を俊之はどう思うだろうか?不安があったのだが俊之は時間内に必ず来てくれると信じていた。今は風が無いがとても寒くために久美子の身体は少し震えている。すると関口と2人の暴走族風の若者が話をしながら歩いてくるのが見えた。久美子はさっと建物の影に隠れた。こんな場所で出会ったら何をされるか解からない。息を潜めて通り過ぎるのを待っていた。
「寒いですね。」
ひとりの男が言うと
「そうだな。」
ロック歌手のような髪型の男が
「寒いから風邪を引くなよ。」
と言った。
「早く帰って関口さんの部屋で何か食べましょうよ。」
もうひとりの男が言った。
「お腹空いたからバイク飛ばして帰る事にするか?」
髪をリーゼントで決めた関口が言うとさらにもうひとりが
「そうしましょう。」
とふたりは声をそろえて言った。関口たち3人は通り過ぎて行ったが久美子はしばらくじっとしていた。怖くて動けなかったのである。
俊之を乗せた乗用車は翔太の運転技術が高いおかげでテレビ局まであとわずかだった。テレビ局まで近づいた時に3人の暴走族風のグループとすれ違ったが道を開けてマナー良くすれ違ってくれた。テレビ局の前で翔太は乗用車を止めると
「ここからは高村さんひとりで行ってください。」
と言った。
「ありがとう。」
俊之は言うと足早に歩き出した。
久美子は夜の闇の中にひとつだけ光る街灯のそばで俊之が来るのを待っていた。不思議と不安は無かったのだ。俊之ならすぐに来てくれると信じて疑わなかったからだ。夜の闇に時折通るトラックや乗用車のヘッドライドが綺麗なコントラストを描いていた。久美子がじっとそのコントラストを見ていた時に俊之からの着信があった。久美子が出ると
「久美ちゃん?」
俊之が言った。
「はい!」
久美子は嬉しいけれど寒さで震える声で言った。
「久美ちゃんのすぐそばまで来ていると思うけどね。」
俊之は言った。
「早いかったですね。」
久美子は言った。
「テレビ局を背にしてどちらの方向に居るの?」
俊之の優しい声で言った。
「右側の階段を降りて堤防の手前に街灯があるベンチです。」
久美子は言った。
「すぐに行くからね。」
俊之は言った。言い終わらないうちに足早に階段の方へ歩き出していた。久美子はひとりで自分を待つ間どんな気持ちでいるのだろう?不安だったに違いない。そう考えながら俊之は夜の闇に街灯が照らす明かりを頼りに階段を降りて行った。
久美子はベンチに座っていたが俊之がすぐそこまで来ているのが解かると立ち上がった。階段の方向じっと見ていた。俊之はあの階段を降りてくるに違いない。ずっと凝視していると俊之の姿が闇の中に浮かんで見えるような気さえした。少しずつ俊之の姿が見えてくる。俊之は黒いコートを着ていたが闇の中でも久美子にはそれがよく見るのだった。シルエットのように浮かびあがった俊之の姿がはっきりと久美子には映っていた。俊之の顔は良く見えないが久美子は世界中のどの男も今の俊之には敵わないと思ったのだ。