雨のあとに虹 その30
翔太は三友商事の本社ビルの前に立っていた。中の様子を伺いながら携帯を手にした。
「関口か?」
と言った
「笹川さん。」
関口が言う。
「今日は時間が取れないからお前らで高村さんと久美子さんを護衛してくれ。」
翔太が言った。
「まかせてください。」
関口が言った。
「しっかり頼むぞ!」
翔太が言うと。
「大丈夫ですよ。」
関口が言った。
「かすり傷ひとつ負わせるなよ。」
翔太は言うと電話を切った。関口はかつて暴走族であったがい今はフリーターとしてまじめに働く青年である。20歳という年齢にしては大人であった。
「笹川さんがあれほど真剣に関わる高村さんはどんな人なのだろう?」
関口は言った。
純子の誘いを断って久美子は講義が終わるとすぐに北西大学を後にした。気に向かう途中に考えが頭をよぎった。ひとみに頼まれたとおり俊之とは親しくしている。昨夜は食事をして楽しかった。だがどうしてひとみは自分に俊之と親しくほしいと頼んできたのだろうか?トレンドカフェの開店日に俊之はふらりと珈琲を飲みにやって来た時にひとみは俊之をじっと見つめていた。久美子は思わず
「どうかしたのですか?」
と声をかけたものだった。そして3回目くらいに俊之が来た時に自分がパスタを俊之のズボンにこぼしたのだ。あの時に自分を押したのは誰だったのだろうか?偶然に押されたのだろうか?ひとみは久美子に軽く注意をしただけで時給まで上げてくれた。久美子にとってはありがたい事だった。俊之は決して悪い人ではない。それは久美子にもすぐに解った。でも俊之は他人にはあまり心を開いていないようだ。誰に対してもあのようにきちんとした言葉遣いを崩さないのだろうか?久美子を乗せた電車は都心のビルに近づいて来た。買い物をするために久美子は途中下車をする事にした。
俊之は郊外の墓地に佇んでいた。墓参りの季節ではないが「入江麗子」とかかれた墓の前俊之の姿があった。俊之はじっと動かず一点だけを見つめている。もし誰かが声をかけようとしても声をかけるタイミングがつかめないはずだ。それほど一点を見つめる俊之には隙がなかった。
「君は亡くなってしまったけど僕は未だに生きながらえているよ。」
俊之は呟くように言った。しばらくそうしていたがやがて意を決したように俊之は歩き出した。俊之からかなり離れた所に沢田が立っていて俊之を眼で追っていたのだった。
「これから練習を始める。」
矢島の声が大きく響いた。
「はい。」
一同がいっせいに返事をして段取りがはじまった。矢島は月に数回柔道場で稽古をつけているのだ。建設会社の社長としての顔もあるが地域活動にも積極的な矢島であった。矢島は柔道3段の猛者であるため必要以上に相手を圧倒する凄みがあった。大きな身体で角刈りのいかつい顔は周囲を迫力がある。ここが俊之と違うところだ。俊之はとても喧嘩などするようには見えないが矢島は矢島は見るからに豪傑であった。矢島に喧嘩を売る者がいたらよほどの人物だと思われる。
「今日はこれまで!」
矢島の声が響いた。
「ありがとうございました。」
一同が挨拶をした。稽古が終わると矢島は柔道場を出た。一汗流したあとはビールが一番だがまだ時間が早いからそうはいかない。矢島が大通りから道へ入った時であった。矢島は人の気配を感じて足を止めた
「俺に用か?」
矢島が言った。物陰から現れて矢島の後に姿を現したのは翔太だった。
「これは失礼しました。」
翔太が言った。
「いったい何の用だ。」
矢島が言った。
「ひとつお願いがあるのですが。」
翔太が言うと
「突然で不躾な奴だな。」
と矢島が言った。
「申し訳ありません。」
翔太が言う。
「厄介な頼みはならお断りだぞ。」
矢島が言うと
「簡単です。」
翔太が言った。矢島は
「どんな事だ?」
と言うと
「これからどんな事があっても高村さんの味方でいてください。」
翔太が言った。
「当たり前だ。」
矢島は言った。
「高村さんはご友人でしたね。」
翔太が言うと
「友人を見捨てたりはしない。」
矢島が言うと翔太は
「それを聞いて安心しました。」
と言い終わるとすぐにどこかに姿を消した。矢島が後ろを振り向くともう誰もいなかったのだ。
「俺が親友を見捨てるわけがないだろう!」
矢島は言った。