雨のあとni虹 その29
俊之は昼をすませて一区切りをつけると矢島建設を出た。矢島や早苗とかるく今後の大まかな予定を確認したのだ。今は全体を把握して数字を頭に入れるだけである。そのあとに矢島の経営戦略を聞いて俊之が的確なアドバイスをしょうとしていた。それに管理職のように社員たちとのコミュニケーションを円滑にする役割も俊之にはあった。今後は多少の雑務もこなさなければいけない。俊之は考えをめぐらしながら大通りから裏道に曲がった。
「翔ちゃん。」
俊之が人の気配を感じて言った。
「はい。」
翔太は言って俊之の背後からすっと現れた。
「いつもすまないね。」
俊之が言うと。
「さすがよく気付きましたね。」
翔太が言った。
「何の事だい?」
俊之が言うと
「昨夜も僕たちが見張っていた事を気付いていたでしょ?」
翔太が言った。
「そうだったの?」
翔太に背を向けたまま俊之はとぼけたように言ったが翔太はそれは無視して
「途中経過の報告です。」
と言った。
「うん。」
俊之が言って翔太の方を向いた。
「12年前の真相にもう少しで近づきそうですよ。」
翔太が言うと
「進展はあったのかい?」
俊之は言った。
「この件に三友商事の榊原和馬さんや経営コンサルタントの斉藤弘子が絡んでしますね。」
翔太が言った。
俊之は残念そうな顔をして
「やはりそうだったか。」
とだけ小さく言った。
「それと貴志義孝と田所健二という評判の良くない社員も関係しているようですが詳細はまだ解りません。」
翔太が言った。
「いつもすまないね。」
俊之が言うと翔太は
「いいえ。」
とだけ短く言った。
「ありがとう。」
俊之が言い終わらないうちに翔太の気配が消えていた。 28歳で自称探偵と名乗る笹川翔太も謎が多い男だ。今のところは俊之の影になって力を発揮してくれている。忍者のように現れる翔太は何者なのだろうと俊之は考える時もあった。昨夜だけではなくボランティアの時もそうであった。俊之の行く先に突然現れて協力をしてくれる翔太が今の俊之にはありがたかった。そんなことを考えながら大通りに出た俊之は足早に駅へ急いだ。
「ちょっと来てくれ!」
矢島は田崎に言った。
「はい!」
元気よく田崎が言った。
「お前は高村とは気が合うらしいな?」
矢島が言った。
「高村さんは良い人ですね。」
田崎が言った。
「それなら高村のサポート役をやってくれないか?」
矢島が言う。
「僕でいいのですか?」
田崎が言うと
「頼むよ。」
矢島が言うと
「勿論ですよ。」
田崎が言った。
「手当てをつけるからな。」
と矢島が言うと
「それは嬉しいですね。」
体育会系の田崎は元気よく言った。