「うーん、ママはね。きっと長く生きている分いろいろな事が頭の中にたまって、それがいっぱいになって少しずつこぼれているんだろうねっていうの」
「そっかあ」
「うん、スープのお皿も マグカップもバケツも 私の手も お口もいっぱいつめると
入らなくなって こぼれるでしょ。それと同じだって」
「そっかあ」
「だから、お年寄りに何度 同じ事をきかれても きちんと教えてあげなさいって、ママが言ってた。こぼれた記憶を拾ってあげなさいって」
けれど、ハルおばあちゃんは、おばあちゃんの目がルビーのように美しい赤だとおじいちゃんに言われた事だけは、わすれていないそうです。
「アキオさん、あなたのひとみは 夕焼けのようよ」
おばあちゃんは、おじいちゃんのしゃしんを見ながら、時々つぶやくそうです。
ああ、一つだけおばあちゃんが、忘れていて良い事がありました。
「アキオさん、早くかえって来てね。私は ずっと 待っているから…」
おばあちゃんは、口紅をひきながらつぶやくそうです。
おじいちゃんが、先にお空に行った事を わすれているのです。
「ハルおばあちゃん、そのことだけは思い出さなくていいよ」
ハルナとハルナのママは、そっとつぶやくそうです。 おしまい