母は、その手紙を見てくしゃくしゃの顔になりました。そして、居間の奥にあるたんすの引出しから白く新しい封筒を出してきました。
母は、私の手紙をきれいに三つ折りにしてその封筒へと入れました。
「ここに おじいちゃんへって 書いてごらん」
母に言われて、私は表書きにおじいちゃんへと やはりひらがなで書きました。
すると 母は
〒777-7 と 郵便番号を書いて
天国 1丁目 幸せ 1番地 と 住所も書いてくれました。
そして、菊の絵柄の1円切ってまで貼ってくれたのです。
「明日、お天気になったら ポストに落としに行っておいてあげるわね」
母は、そう言って、その封筒を黒電話のそばに置いてくれました
いつも、出す前のお手紙を置く場所です。
私は、両手をあげて
「わーいわーい」
と、とても喜びました。
次の日、学校から帰って黒電話の横を見ると、既に封筒はありませんでした。
「おかあちゃん! お手紙だしてくれたの?」
私が叫ぶと、母は台所から
「だしといたわよ」
と、ほほ笑みながら言いました。
数日して、学校から帰ってみると台所の机の上に、私あての手紙がありました。私は急いで封を開けました。
ちーちゃん へ
おてがみありがとう
おじいちゃんは、しあわせにくらしています
おべんきょうがんばってね
おじいちゃんより
それから、私は何度かおじいちゃんとの文通をしました。
そして、いつしか40年以上経ち母が、おじいちゃんの所へ行きました。
私が、母の嫁入り道具で、母がとても大事にしていた質素な箪笥を整理していた時です。
母は、戦後すぐの事だったので、この本当にシンプルな大きくもない箪笥を持って来るのが精一杯だったと、私に話してくれたことがありました。
その箪笥の引出しの一番下の奥に、見覚えのある封筒の束が出てきました。
〒777-7 天国 1丁目 幸せ1番地
私は、その封筒の束を今度は自分の大事にしている箪笥の中に入れました。
私の名前を書いた少しまがった字が、母の字にそっくりな事に、あの頃の私は気づかずにいました。けれども、今それがわかっても、母のやさしさがそれを隠してくれます。消印の無い私への手紙が、母からの一番の形見となりました。 完