長い沈黙の後、イン ザ センチメンタル ムードが始まった時でした。
「じゃぁ あれだ あんたが言う値段にしてあげるよ」
「えっ!!」
私は非常に驚いたと同時に困ってしまいました。値段など、私が決められるはずがありません。
しかし、私はどうしてもそのカメオが欲しくて、思わずマスターに質問をしていました。
「これ 何年頃?」
「そうだなぁ。ビクトリア…うーんもうちょっと 新しいかな。めのうじゃよ。 綺麗じゃろう」
「そうなの…」
「あんた、よく来てそればっかり見てたからな」
「あら、ご存知だったんですか」
「ふふっ。あぁ。あんたみたいに一途な客は忘れないよ」
気にとめられていないのだとばかり思っていた私は、なんだかとても恥ずかしく思いました。
「そうですか…。値段、わからないわ。私素人だし」
「あのなぁ。アンティークの値段なんて あってないようなものじゃよ。決め方っていうのは一応あるがね。わしは、あんたみたいな客には『想い料』しかもらわんのじゃ」
「『想い料』?」
「そうじゃ。『想い料』じゃ。くだらん薀蓄並べあげて金をちらつかすような奴からは ふんだくってやってるから安心おし」
そう言うとマスターは、肩を揺すって大きく笑いました。
―この人も 笑うんだ―
私は急に、マスターを身近に感じていました。
「あんた、今財布に幾らある?」
「ええと、3000円くらいです」
「じゃぁ。今夜のわしの飯代とかを考えて…1000円でどうじゃ?」
「えっ!そんな…。これ安くても10万はするんじゃないですか?」
「だから、言ったじゃろ『想い料』だ。
それに明日な、お得意様のマダムが来て、ほれそこのレースを全部買ってくれるそうじゃ。それに上乗せしとく」
そう言って 今度は パイプをふかしながらマスターは大きく笑いました。
「そんな、その方に悪いわ」
「ふんっ。その人にちゃんとあんたの話しをするから気にするな。レースがより素敵に見えるようになったって、きっと喜んで言う人じゃよ」
「本当に?」
それを聞いて私は、胸のどきどきが加速したように思いました。
「本当だ、さぁ買っておくれ」 つづく