おばあちゃんは生まれつき体に障害があって
身体のあちこちに手術の跡、
あまり自由の効かない生活をしてた。
色んな病気や疾患を重ねて持っていて、
小さい頃はそれでよくイジメられたと
よく話していた。




『それに比べてあんた達は幸せなんだから〜』
『五体満足がどれだけ恵まれてるか〜』

それがおばあちゃんの口癖。



そんなばあちゃんが自由の効かない身体で
病院まで来てくれた。
長女を出産したときだ。
ベビードレスをプレゼントしてくれたんだ。

この頃から家で転ぶことが増えてたらしい。



郁人を火葬した日、
ばあちゃんはもう外出出来ない位、
体力がなくなってて、
代わりに家でずっとお仏壇にお唱えしててくれた。



『いつまでも泣いたら
成仏できゃしないよ、
あんたが心配で
成仏どころじゃないよ!
泣くだけ泣いたら、
また戻っておいでって笑いんさい!』





おばあちゃん成りに励ましてくれたんだと、
昔の私なら解らなかったんだろうな。

ばあちゃんもお空にこどもがいるから、
家族の中できっと
誰よりも私の気持ちわかるんだろう。





『お腹の子の顔を見るまでは死ねないよー』



ばあちゃん、それ長女の時から言ってた。

ジュニアが生まれて1ヶ月の時、
ばあちゃんが救急車で運ばれた。
転んで頭も打って足を骨折した。
寝たきりになってしまったが、
相変わらず口は減らなくて。

長生きするわよ〜って
おかあさん笑ってた。




それから毎日数回ヘルパーさんがきて、
夜中は母がお世話をしていた。

時々時間がわからなくなったり、
同じ事を何回も聞くようになったと
お母さんが話してた。

それから1ヶ月、
仕事と介護の両立が厳しくなってきたと、
お母さんが退職を考えていると相談された矢先だった。



母から着信。

『もしもし』

声で解った。
ばあちゃんだ、って。

ばあちゃんに何かあったって。


ヘルパーさんがばあちゃんの意識が
混濁してる事に気付いて緊急搬送。

病院で色々対処してもらってるけど
おかあさんひとりじゃダメらしくて、(何がだろう)
身内がもう1人目必要との事。


家族の中で病院から一番近くて、
連絡ついたのが私だったらしく、
産後なのにすまないが来てくれ、との事。



訳わかんなかった、訳わかんなかった。
でも急いでタクシー飛ばして
病院行った。


泣き腫らした顔のおかあさん。

色んな服装のお医者さんやスタッフさん達。

機械の音と、
呼吸器が定期的にばあちゃんの胸を動かす音。

ばあちゃんはずっと天井を見つめたままだった。



生きてるじゃん!


それが最初に思った事だった。

何で泣いてるの?
目も開いてるじゃん。

ちゃんと話しかけ続ければ
意識なんて戻るよ。
みんな何やってんの、孫に任せてみ!


『ばあちゃん!』


『ばあちゃん何してんの!起きよ?』
『ばーちゃーん、私だよー!』

後ろではおかあさんがまだ泣いてる。



『ばーちゃーん、長女きたよー!』

『ばーちゃーん、ジュニア2ヶ月になったよー』

おかあさんの泣き声が一層大きくなる。




『ばーちゃーん、ばーちゃーん』

強く揺すると、沢山ある中の機会が鳴り始めた。

あ、触っちゃいけないんだって思って

代わりに声を大きくした。


『ばーちゃーん!ばーちゃーん!』
『ばーちゃーん、私だよー、帰ろー!』

情けない。

私が泣いてどうする。



それから椅子に腰掛ける様にうながされて、
白衣を着た先生が口を動かす。



ご覧になられてると思いますが、
自立呼吸が難しく、呼吸器をつけてます。

脳にも反応が見えません。
色々調べましたが、
今後脳が再び反応を見せる事はまず、
ないと思います。

ご家族の方にお伺いしたいのは、
この後、心臓が止まった場合、
延命処置をしますか、
それとも自然に任せますか。




よくドラマで見るワンシーンの様だった。

おかあさんが私を見る。
その選択をするにあたって
身内1人だけじゃ出来ないそうで
もう1人身内がいないと
決定できない決まり?だそうで。




だから、私が呼ばれたんだ。

命の、選択。

ここまできて、神様は私を選ぶのか。



郁人のいのちのじかんを決めた私。

次はおばあちゃんのいのちの選択を

しろっていうんだ。




『宜しい、ですかーー?』



おかあさんは、これ以上

ばあちゃんに苦しい思いをさせたくない、と

自然に任せる、と伝えた。


何人かスタッフさん達が部屋から出て行って

おかあさんは泣き崩れた。

おばあちゃんの胸にしがみついて、

子供のように泣いた。


ごめんね、ごめんね、と言いながら

わあわあ泣いた。

それを見てわたしもまた泣いた。