旦那『動いた!』

私『エッ!』

旦那『見てな、胸が上がるから!』

私『本当だ!生きてる!生きてる!』


時折呼吸をする様に
胸の当たりが膨らんで萎む。

それは、息をしてると言うに近いか、
身体の機能の名残か。

解らなくても、解らなくても
嬉しくて、悲しかった。



私『苦しく、ない?』

涙が滲んで滲んで
赤ちゃんの顔が見えない。


旦那『ムービー、撮って…い?』

私『…』



どうなんだろう、

snsで亡くなった方の横でVサインして写真を撮って、沢山叩かれてる人を見たことある。

やっぱり亡くなってる人を
写真や動画に収めるって
不謹慎、かな?

常識的にどうなんだろう、
こんな状況になったの初めてだから
解らない。


考え込む私に
旦那が続ける。


旦那『嫌だったら
後で消すから。
動いてるこの子を、
忘れたくないんだ、』


黙って、頷いた私はズルいかな。




私に抱かれた赤ちゃんを
写真に収めると、
俺も撮って、とカメラを渡された。

とても、穏やかな顔だった。
目尻を下げ、赤ちゃんを抱く。



旦那『ちっちゃいな、おまえ。』



この光景を
待ち望んでいた。

何も変わらない。

生まれた赤ちゃんを
旦那が優しく抱く。

お腹にいる時からずっと
待っていた瞬間。


同じなのに、
こんなに違う。



一時間程、3人で過ごしただろうか。

婦長さんが来て、
いろんな事、話した。

火葬の許可証を
役場でもらいに行く事、

この子は戸籍には載らない事、

明日には退院して大丈夫な事、

たくさん、たくさん話した。

とても親身になって
話をしてくれたし、
話を聞いてくれた。


まだ、桜の季節だったけど、
充分に暖かい気温なので、

すぐ棺に入れてあげたほうが
良いとのこと。
…いたみやすい、から。


背中側や
横側に
沢山保冷剤を入れてくれると。

言葉を選びながら、
慎重に、赤ちゃんの為に
話を進めてくれた。


じゃあ、棺へ入れるから
一旦赤ちゃんとお別れ、
となった。

婦長さんが、赤ちゃんを抱いて
背を向けた時、

旦那が口を開いた。






旦那『性別って、
もう分かれてました??』


ずっと男の子が良いって旦那が言ってて

郁人って名前決めてて、

お腹にいる時から

郁って呼んでて、

でも性別を楽しむどころじゃ

なくなって…。






婦長さんがまたこちらに歩み寄って
タオルをはだけてくれた。

婦『多分、男の子で間違い、ないでしょう。』



すこし、盛り上がったそこを
見せてくれた。


旦那と目を合わせて
私はまた泣いた。


旦那『おまえ、お利口さんだな。』

旦那も鼻をすすりながら
郁に別れを告げた。




郁、郁、大好きだよ。