淡路島(兵庫県)の洲本遊廓跡を訪ねた。
場所は洲本市海岸通1丁目周辺。かつては漁師町と呼ばれ、明治12年に廓が形成された。昭和4年発行の大日本職業別明細図第164号兵庫県及び徳島県によると現在、淡路第二プリンスホテルや旅館小柳などが立つ付近が該当している。昭和5年に発行された全国遊廓案内にも洲本が紹介されている。それによると妓楼は約19軒、娼妓は約100人。花代は1時間1円50銭、1泊は3円50銭と記されている。
妓楼だったとされる旅館小柳を探したが見つからない。付近の住民に場所を訪ねた。
「すみません、旅館小柳はどこでしょう」
「小柳?さあ、知りませんなあ」
「昔からある宿らしいんですが」
「ああ、分かった。あの路地にやわ」
「まだ営業されてますか」
「さあ…それは分からんけども」
言われた通りに護岸の残る路地をそろりそろりと入ってみた。数歩歩くと、すぐ右手に旅館小柳が現れた。屋号などは一切囲気ですぐに分かった。おそらく誰か住んでいるのだろう、外観も庭もきれいに整備されていた。
ここを中心に歩くと、周囲には妓楼だったであろう遊廓建築の建物が点在していた。往時はこの場所からすぐ海。舟が多く行き交い、にぎやかだったろう。海を見つめ、旅の疲れを癒やしている客人に寄り添う遊女の影が、今も窓際に映っているようだった。
狭い路地に潮風が吹く。古い元妓楼の木の香りと混ざり合い、何とも言えない独特の空気が流れていた。