「受付から投薬までの時間」

 

「患者さんが待ってるから早く投薬を済ませないといけない」

 

このような指導を受けたことはありませんか?ほとんどの方が言われたことがあると思います。しかし、それだけで納得できますか?どこかもやもやしたまま業務をしていませんか?

 

 

今回は私の考えを先に言います。

 

私は受付から投薬までの時間を「患者の時間」であると考えて仕事をしています。

患者の大切な時間をお預かりしているので、きちんと付加価値を付けてお返ししないといけない」そう思って仕事をしています。

 

決して「患者が待っているから急ぐ」とは考えません。

この考え方は、きちんと仕事をしている薬剤師に対して失礼であり、薬剤師業務を軽視した発言だと思うからです。

 

この考えにたどり着いた経緯について順を追ってお話していこうと思います。

 

 

 患者さんが待っているから急いで出してください!

 

私が最初に事務員さんからそう言われた時、「薬剤師として必要な業務をしているのになぜこれ以上急かされないといけないのか。必要なチェックをスキップしてしまったら調剤過誤につながって、最終的には患者の健康被害になるのではないか?」と疑問に思っていました。

 

当時は薬剤師になりたてでしたが、「どこが遅いから急ぐように」といった具体的な改善点もなく漠然とスピードが求められていたので、こんな指導をしていればミスが増える元にもなるし、非常に危険な職場だなあと懸念していました。幸い(その時は幸いと思っていました)直長をはじめとする身近な人たちは「調剤には時間がかかるから待つのは当然だ」といってきちんと鑑査をする時間を取らせてもらえました。私も当面はその価値観で業務を行っていました。

 

 

 改めてスピードと向き合う

 

「患者が求めているものは1にスピード、2に情報だ」

調剤や鑑査で時間がかかるものだと割り切って、きちんと時間を取って仕事をしていた私ですが、転職活動中にそれまでの1.5倍の給料を提示した会社の社長がそう言ってきたのです。

「それで私の考えが変わった」と言うことはないのですが(笑)、尋常ではないほどスピードにこだわる姿勢を見て、改めてスピードについて深く考えるきっかけをくれました。(ちなみにその方は薬剤師ではないです)

 

 

 客観的に見るとどうなんだろうか?

 

患者視点で見ると、体調が悪くてしんどいから/薬剤師がしている仕事を理解していないから早くできるものだと思っている/待っている間暇だから といった様々な理由でスピードが求められているのだろうと思います。

 

漠然とですが、自分が待つ立場になると、まだかまだかと感じるのは仕方が無いと思います。薬剤師の業務上、すぐに準備できないのは仕方がないのですが、どこかで折り合いをつけないといけません。少なくとも自分を納得させ、自信をもって患者や同僚に説明できる基準が必要だと感じ、数か月業務のスピードについて考え続けました。

 

考えるに従って、「時間がかかるのは当然なので、待ってもらうのも仕方がない」という薬剤師目線の考えを一旦捨てるようになりました。

また、「スピード」を意識しすぎるとミスの元になるため、「時間」と考えるようになってきました。

 

 

 今は誰の時間を使って仕事をしているのか?

 

私なりの答えにたどり着くのに一歩一歩プロセスを踏んだと言えばそうではなく、閃きの連続で腑に落ちる考えにたどり着いたという方が正しいかもしれません。

 

ピッキング後に処方箋との鑑査照合を終えて、入力が上がるのを待っている間、ふと「この時間は誰の時間だろう」と思いました。これがきっかけで自分の中でもやもやが解決されていきました。「この時間は患者の時間をお預かりしているんだ」と。そこからはトントン拍子で考えが埋まっていきました。

 

「患者の時間をお預かりして準備をしている。入力を待っている時間はただ患者が待つだけの時間になってしまう。それならば、入力が上がるまでの時間は患者のために使おう」と。たまたまレセコンの調子が悪くて入力が上がるまで時間がかかりそうだったので、ほぼ無意識に先に患者の席に行って、処方変更の経緯や最近の生活での出来事などを聞き取っていました(元々こういうコミュニケーションはよく取っていたので自然と行動に出ていた)。雑談まじりになりながらも、1回分の薬歴が埋まるぐらいの情報収集を終え、そのころに入力が上がり、改めて投薬という流れになりました。

 

「スピード」を上げる術を見つけた訳ではないのですが、私の中での価値観は明確になりました。

そう考えるようになってからは、お預かりしている時間は全て患者の利益のための時間になっているか確認しながら、業務の取捨選択ができるようになりました。元々無駄な時間は作らないようにしていたので、業務自体に違いは出ていないと思いますが、より判断基準が洗練されました。

 

最初の考えである「待ってもらうのも仕方がない」のも間違いではないと思うのですが、投薬までに行っていたこと全てを1つ1つに分解して考えたとき、本当に必要な業務だけだったのかは考えるべきかなと思いました。

 

 

 考えてみてください

 

患者の大切な時間をお預かりしているので、きちんと付加価値を付けてお返ししないといけない

この価値観であなたの薬局での業務を振り返ってみてください。優先順位が変わることなどはありませんか?

お預かりした患者の時間でする業務なのか、お預かりしていない時間(待っている患者がいない時間帯)にすればいい仕事もいくつかあるはずです。

特に派遣薬剤師として働いている時に「今それをやるのか?」と感じることが多かった印象です。(それこそ「患者が待っているのに」です)

 

 

スピードに留まらない「付加価値」

 

スピードを切り口に私の考えを述べてきましたが、スピードに限ってしまうと「お預かりした時間を無駄に使わずお返しする」に留まります。「付加価値を付けてお返しする」ということは、質の高い服薬指導がセットです。スピードを維持しつつ待たせた時間以上の付加価値を付ける。薬剤師業務は考えれば考えるほど奥が深い仕事だなと感じます。

 

 

まとめ

 

今回は「なぜスピードが求められるのか?」を切り口に話を広げてみました。

1つ1つの事柄に疑問を持ち、自分が納得する考え方にたどり着くまで追求することは非常に大切だと思います。

この考え方も話を聞いてくれた方は概ね良い感触で受け止めてもらい、腑に落ちたと言ってもらえました。

答えは薬剤師それぞれだと思いますが、「何となくスピードが大切と思った」や「言われたからスピードを意識した」ということを理由にすると、イレギュラーが起きたときに筋の通った判断はできません。皆さんもこれに限らずこだわって考え抜いていただけると幸いです。

 

もし「これはどのように考えるか?」というような質問などがあれば、なるべくお答えしようと思いますので、コメントをお願いします。

 

次は6/12(水)にプレアボイド事例のケーススタディの記事を書こうと思います。

次のなぜ?シリーズは少し時間を空けて再開しようと思います。