薬剤師はどのような価値を患者に示せるか

 

「服薬指導の前後で患者さんに少しでも違いがあるか、価値を持ち帰ってもらっているか?」

 

これは事あるごとに私が自問自答していることです。

インターネットでこのような情報を見ている皆さんなら、恐らく大半がYesと回答されると思いますが、ここにはこだわってもらいたいので記事にしました。

 

 

 薬局に来た時点で患者の要求は満たされている

 

患者側に立って考えてみましょう。

体調が悪くて病院を受診する。医師からは診断結果の説明を受け、それに対する薬を処方してもらう。この時点で患者の要求は完結していることがほとんどなのです。

 

薬局では処方してもらった薬をもらうだけと思われている中で、薬剤師が患者にしてあげるべきことは、今よりも良い状態になるきっかけを作ることです。コンプライアンス、薬の知識や病気の知識、薬の管理方法など、何が良くなっても良いと思います。私たちは今より良くなるための情報をたくさん持っているはずです。「安心した」など感情的な点にも当然寄り添う必要がありますが、私たちは専門職です。それに加えて、「薬物治療」に対してプラスになる面を示せるようにしていく必要があると考えます。

 

それができないと、薬局はただの自動販売機と同じです。待ち時間がある分余計にたちが悪いです。そう思われないような仕事ができていますか?

 

なお、患者の要求が解決していないパターンもあります。「説明不足の医師が何も話さず薬だけ処方した」なんていうパターンは皆さんも耳にされることもあるでしょう。「大きな病気でショックが大きい」といった心理的なケアが不十分なパターンもあるでしょう。こういった場合は課題が明確なので、薬剤師として寄り添い、より患者に近い立場でフォローする機会になるでしょう。

 

 

 ケーススタディ

 

今回はケーススタディで考えていきましょう。

シンプルなパターンにしていますが、以下の内容を評価してみましょう。

もし服薬指導を改善するなら、あなたはどこを改善しますか?

 

処方内容:アムロジピン5mg 1回1錠 朝食後  (処方Do)

聞き取り:診察室血圧 120/70、家庭血圧 115-125/60-70

 

S:血圧は落ち着いている

O:診察室血圧 120/70、家庭血圧 115-125/60-70

A:血圧は良好に推移。ふらつきや浮腫みなし。

Ep:指示通り服用してください

 

 

 

今回の例題の評価

 

 

さて、今回の投薬は血圧コントロールをテーマにしているようです。

聞く限りバイタルは安定しており、副作用の兆候もなく、課題も見つかりません。

この服薬指導の前後で患者に何か変化を与えられたでしょうか。

 

ありきたりの薬歴だとは思いますが、個人的にはEpを「指示通り服用」で終わらせることはあと一歩仕事が足りないと思います。もちろん、この一連の仕事で「浮腫みの副作用が無いことを確認」し、「血圧コントロールが良好であることを確認」しており、その結果「継続して服用することが妥当である」と判断できているので、薬剤師として最低限の仕事はされていると思います。

 

ただ、患者目線で考えると、血圧を聞かれて答えて薬をもらうだけです。服薬指導前後で大きく変化は無いのです。

つまり、「医療」という側面ではきちんと仕事ができていても、「患者」という側面では薬剤師がきちんと仕事をしているかが分からない(評価してもらえない)んです。

 

私は聞き取りに対してEpで一言返せるように心がけています。

S:血圧は落ち着いている

O:診察室血圧 120/70、家庭血圧 115-125/60-70

A:血圧は良好に推移。浮腫みなし。

Ep:血圧は正常値です、順調に推移しています。〇〇さんの場合、135/85を超えないようにする必要があるので、高い数値が続くようなら早めに受診して相談しましょう。(もし医師の治療方針が分かっていれば具体的な数値を伝えた方が良い)

また、この薬は一定の割合で浮腫みが出る方がいるので、念のため確認しました。特に問題を感じていないようなら、安心して引き続き服用ください。

 

Epだけ変えましたが、これだけで少なくとも以下の4点のメリットを示せます。

  1. バイタル確認から現状の評価をフードバック(患者による病状の把握)
  2. 病識の向上(ご自身で確認できるバイタルの目標値やアラート値)
  3. 服用によって起こりうる副作用が出ていないことを知ってもらい、安心して服用を続けてもらう
  4. 副作用の知識が付いたため、今後浮腫みを感じたときに薬による可能性も考慮できるようになった

薬剤師からの質問は科学的な根拠があって聞いているはずです。その背景を説明することで患者教育もできるし、薬剤師の行っている仕事の意義を理解してもらえるのではないかと思います。また、結果をフィードバックすることで治療状況の透明化にも繋がります。

 

ここでは一言足すだけという簡単な解決策を提案しましたが、服薬指導前後で患者の知識・理解に違いが出たのではないでしょうか。もちろん、その他にも家庭血圧を測定するタイミングを確認して指導しても良いし、測定頻度をテーマにしても良いです。季節の変わり目であれば血圧が変動するリスクが上がるので、注意喚起するのも良いですね。

 

 

まとめ

 

今回は「患者」に近い側面で服薬指導の再評価してみました。

あなたは【患者に「価値」を持ち帰ってもらえていますか?】

 

薬剤師の仕事は「医療」だけでなく「患者」「経営」「職場環境」を考えて行う必要があります。特に服薬指導は、「医療」「患者」「経営」をバランスよく考慮して振り返っていただくことを願います。

 

「経営」については、今後「コスト意識」といったテーマで記事を書こうと思います。

 

次は5/22(水)に「服薬指導に用いるリスク管理と危険予知」といったテーマで記事を上げようと思います。