「対人業務」についてどのように感じていますか?

 

「対人業務」という言葉をよく聞くようになってから結構な年月が経っていますが、皆さんは「対人業務」についてどのように感じていますか?

私個人としては、「対物業務の時間を対人業務に充てるようにシフトしていく」という「」の側面の話はよく耳にしますが、「対人業務」の「」を上げるということについては議論が不十分ではないかと感じています。それに近しい「傾聴」や「接遇」という話はよく耳にしますし、非常に大切なことだと思うのですが、「専門職としての対人業務」にはそれだけでは不十分だと思います。

 

私からは、対人能力として、「聞き出す力」「伝える力」を提言したいと思います。(もっと良い言い方があるかもしれませんが)

 

余談ですが、経営面で見ると対人業務の「」の話は非常に重要です。ピッキングなどの対物業務から解放することで、店舗の薬剤師の人数を減らすことができるので、人件費の削減につながるからです。ただでさえ急速なインフレから調剤報酬が取り残されている状況なので、支出を抑えないと利益は出なくなっていますから・・・

また、「対物業務」も非常に重要です。この部分こそ薬剤師の専門性を活かす部分だと思うのですが、評価されていないことは非常に残念に感じています。この話題はまた別の記事を作ろうかなと考えています。

 

 

 服薬指導の目的

 

そもそも服薬指導は何のために行うか。「薬を正しく服用し、適切に治療を進めるため」のものです。

 

では、薬を正しく服用し、適切に治療を進めるためには何が重要でしょうか。優先度の高いものからざっと列挙していきたいと思います。

  1. 副作用のリスクが無いか確認(過去の副作用・アレルギー歴や腎機能・肝機能の評価)
  2. 飲み合わせを確認するために併用薬を漏れなくチェックする
  3. きちんとした用法用量で服用するように指導する
  4. 飲み忘れや飲みすぎないようにコンプライアンスを維持する
  5. 薬効を落とさないように(失活させないように)適切な薬の管理を行う
  6. 適切なバイタルで病状がコントロールできていることを確認する
  7. 患者が病気の知識・薬の知識をつける
  8. 服薬に関する不安感を取り除く

まだあると思いますが、リストに挙げることが目的ではないので、この辺で話を進めます。かなり極端な表現をしますが、「治療」の側面から機械的に判断すると、患者が薬の知識を持っていなくても、指示通りきちんと服用できていれば、治療自体は上手く進みます。それとは逆に、患者がきちんと薬の知識を持っていても、用法通り服用できていなければ治療は上手く進みません。

バイタルの確認よりも副作用やコンプライアンスの確認の方がより優先度が高くなります。

これはリスクマネジメントの考え方です。より健康リスクの高い懸念点から整理していくことがより安全に治療が進められることになります。

 

もちろん、患者に薬の情報を提供することや、バイタル確認も日常業務で行うべき非常に重要なことです。

しかし、安全に治療を進めてもらうためには、優先順位を取り違えず、より重要な確認をした上で患者の病識・薬識の話題へ進むべきです。

 

 

 聞き出す力!!

 

さて、冒頭で聞き出す力と記載しましたが、感情に寄り添う「傾聴」や「接遇」とは異なります。服薬指導の内容を合理的に判断するため、必要な情報を収集することです。「傾聴」「接遇」は人間力の部分、私が提唱する「聞き出す力」は専門性を活かすための「スキル」です。

 

投薬台で患者と相対したら、まずは患者の状況を聞き取り、課題を抽出し、何を優先すべきか、どの程度まで深堀して説明するかを評価すべきではないでしょうか。

一度以下のリストをご自身で評価してみてください。

 

  • 治療上の課題の有無を漏れなく評価できていますか(コンプライアンス、副作用、薬の管理状況など)?
  • 患者の性質を理解していますか(服薬介助を受けていないか、自己判断でスキップしていないか、心配性で薬を飲むことを怖がっていないかなど)?
  • 患者の理解力を把握していますか(どこまで踏み込んで説明するか、難しい言葉を使っていないか)?
  • 課題が見つからなくても具体的に「どの点で課題が無かったか」きちんと薬歴に残していますか(具体的に記載していないと毎回同じ質問になる)?
  • 患者に聞き取りを行った質問の意図や評価の結果をフィードバックしていますか?(これは一部接遇に分類されるかもしれません)


簡単に挙げただけでも、指導に当たる前に薬剤師側で把握しないといけないことや実施すべきことはこんなにもあります。過去の薬歴や申し送り、患者の一挙手一投足を見逃さず、適切な選択肢をできるようにすること、これこそが本当の「対人業務」になると考えます。

また、単に「聞き取る」のではなく、踏み込んで「聞き出す」という思いが大切です。患者の主訴を受け身で聞くだけでなく、疑問点やおかしな点があれば、専門家として踏み込んで引っ張り出す必要があります。

その際に信頼関係が不可欠であり、そこで「傾聴」や「接遇」の意識が大切になるのかなと思います。

 

以下に一般に言われている薬剤師の対人業務を挙げましたが(薬局薬剤師の業務について ~薬剤師・薬局の現状と課題~より)これらはあくまで課題解決のための選択肢・手段であり、目的ではないと考えます。出回っている資料にも、これらが「対人業務」であるかの書き方がされているものが多いです。皆さんの中にはこの「手段」を「目的」と勘違いされている方がたくさんいるのではないでしょうか

 

 

 【一般に「薬剤師の対人業務」とされている業務】

  1.     処方内容のチェック(重複投薬・飲み合わせ)、処方提案
  2.     調剤時の情報提供、服薬指導
  3.     調剤後の継続的な服薬指導、服薬状況などの把握
  4.     服薬状況などの処方医へのフィードバック
  5.     在宅訪問での薬学的管理

 

 

 伝える力!!

 

いかに薬剤師が情報をアウトプットしても、患者にインプットされなければ何の意味も成しません。「伝える」ということは、ジャーナリストの池上彰さんがその内容だけで書籍を出されているみたいに、1つの記事で説明しきれるものではありません。ここでは、患者に伝わる表現や言葉の選択をする重要性についてお話します。

 

患者の知識のバックグラウンドはそれぞれです。患者はほとんどが素人ですが、中には理系の学部を卒業してそれなりの知識を持っている方、仕事である程度生物学・栄養学などに触れている方や介護職・看護師など、より知識を持っている方もいるでしょう。バックグラウンドが異なる中、同じ説明や同じ言葉を使っていませんか?

他愛のない会話からも、知識のレベルや思考の回転など、感じ取れることは多くあります。その中で患者に最も適した言葉を使い、伝える情報量も患者ごとに検討するべきではないかと思います

特に高齢になればどうしても理解するのに時間がかかってくることが増えてきます。「聞きなれない言葉の意味を理解するのに時間がかかったが、その時には既に話が先に進んでいる」といったことが無いようにしましょう。皆さんはそういった気遣い・配慮をされていますか?

 

私は患者の背景を感じ取るように意識して、細かく言葉を選んでします。以下の言葉を何となく使っていませんか?いくつか例えを挙げましたので、お時間があればご確認ください。

 

「定期薬」・・・この言葉は介護・医療にバックグラウンドが無い方には使いません。意味は理解できると思いますが、馴染みが無い言葉です。私は「普段お飲みの薬」という表現を使うことが多いです。

「薬歴」・・・一般の方も言葉の意味は想像できると思いますが、馴染みがありません。一般的な「カルテ」という表現を用いて伝えられる方もいますが、正しい名前ではなく、病院のカルテの情報が共有されていると誤解を招きます。そこで、私は「薬の記録」と伝えています。難しい言葉にしない方が患者からは理解しやすいと思います。

「拡張」「収縮」「阻害」・・・理解はできますが、普段の生活ではあまり使わないので、できる限り使いません。

「一包化」・・・介護・医療のバックグラウンドが無い方には馴染みが無いため、まずは分包紙を見せて、「袋にまとめること」と説明します。今後のために「一包化」という言葉も説明し、次回以降その言葉でやり取りできるようにします。

 

あくまで私のやり方です。信頼関係を保ったコミュニケーションができるのであれば、使ってはいけないとは思いませんが、今後の対人業務の一助になればと思い例を挙げました。

 

 

 

まとめ

 

長々と書きましたが、簡単にまとめます。

昨今、薬剤師業務で重要なのは「対人業務」と言われていますが、必要な業務は「薬物療法を遂行するための課題を見つけ出し、最適な解決策の提示をすること」が薬剤師としての「対人業務」であると考えます。知識のアウトプットの前に情報収集(SOAPで言うところのSとO)をしたうえで、それぞれ評価を行い、どの指導を行うか考察し(A)、その結果をアウトプット(P)するべきでしょう。

この時の主な課題に「副作用、薬物相互作用、コンプライアンス(解決のための薬の管理状況の把握)」があり、時には治療方針(例えば明らかに高い数値で血圧や血糖値がコントロールされていたり、医師の進める治療の方向性と患者の思いに齟齬がある場合)などに踏み込むべきだと思います。

 

ちなみに、遠くない未来にAI(例えばChatGPTなど)で患者が知りたい情報はすぐに得られるようになると思います。薬剤師は「患者が気づいていない潜在的な課題」を「聞き出すこと」で今後も価値を示していけると信じています。まだAIには潜在的な課題を見つけ出すことまではできませんから。人と人と顔を合わせて行う業務の価値を示していくためにも、是非聞き出す力を一緒に高めていきましょう。

その上で専門知識を蓄えてアセスメントのレベルを上げ、伝える力を伸ばして患者の意識や生活に変化が出るようにしていきましょう。

 

ここで終わってしまってはただの理想論になるので、今後は具体的なケーススタディで処方箋・薬歴・お薬手帳などの表の情報からは引き出せない情報を「聞き出して」課題を解決した例などを挙げていこうかと思います。

 

なお、次は5/17(金)に「患者目線で服薬指導を評価してみる」といった趣旨の記事を出そうと思います。