「もしもし。どうしたの潤くん」
「あ、えーっと、二宮くん……の携帯で合ってる?」
 「……はい?」

 
 いや、誰よ。
聞いたことがあるような、ないような、とりあえず潤くんではないその声の主に、俺は携帯のディスプレイを2、3度見返してしまった。
そこには確かに「松本 潤」と言う無機質な文字と、海外に旅行に行った時に友人に撮ってもらったのだと言う見慣れたアイコンが表示されている。
だから潤くんからの着信で間違いない、はずなのに。


もしかしていたずら電話?
俺、からかわれてるの?
なんて考えながら携帯を握りしめたままにしていたら、「あれ?もしもーし」と電話口から相手の焦ったような声が聞こえて来た。


「あ、すみません」


耳元に当て直して咄嗟に謝ってはみたものの、名乗ってくれないから相変わらずこの電話の相手がどこの誰かも分からなくて、でも彼が潤くんの携帯を持っているのは事実だから下手に切ったりもできなくて。


後に続く言葉が見当たらなくて「えっと」「あの」とかもごもごしていたら「あ、ごめんごめん。俺、櫻井っていうんだけど」とようやく彼は自分の名前を告げたのだった。



サクライ、櫻井。

必死に頭の中の引き出しから、櫻井という名字の知り合いを探してみる。
とりあえず、同じ部署ではないはず。
それなら違う部署で、潤くんと飲みに行くほど仲が良い人ってことだ。

ぐるぐると思考を巡らせてはみたものの、今俺がいるのは職場ではなく自分の家。
頭が仕事モードではないうえ、もうすぐ寝ようとしていたところだったわけで、いまいち櫻井という名字にピンと来るものがない。