キョウチクトウ(夾竹桃)は青酸カリよりも強いとされる有毒成分「オレアンドリン」が含まれます。しかし、この花が「広島市の花」として昭和48年に制定されました。ご存知の通り、広島市はかつて原爆が投下され、75年間草木も生えないと言われた惨状と化し、当時の方々は筆舌に尽くしがたい生地獄に身を置きながら悲嘆に暮れるしかない毎日を過ごすことになりました。その失意のどん底の中で、このキョウチクトウの花がいち早く咲いたのです。

 

私には妻がいて、息子がいて、娘がいて、当たり前のように家族団欒の時間を持ち、着る服があり、食べるものがあり、住む家があり、快適な生活が与えられているわけですが、この当時の被爆をされた方々は、一瞬の内にすべてを失い、生き別れ、死に別れ、夫婦、親子、兄弟姉妹、友だちなど、大切な人を失う痛みと悲しみに打ち砕かれました。何年、何十年経っても、消えない傷跡を胸に、耐えて生きて来なくてはなりませんでした。

 

そのような中、このキョウチクトウの花が、誰も触れることのできない孤独な傷跡に優しく手を触れ、希望を見出すのが難しい暗闇に光を照らして「復興のシンボル」となることができたのは、一緒に被爆して、一緒にすべてを失ったのに、再び望みの花を咲かせて、生きる希望と勇気を与えてくれたからだと思います。どの花もできないことをキョウチクトウの花はしたのです。