最後の試合 | 花師論

花師論

まるっきり今までの生活を捨てて、ひっそりと身を隠して起死回生をボ~っと見つめるただのおっさん。
世間では「報われない人」と笑われ、「前に出るな」と罵られながらも、いつも笑顔で暮らしている。
さてさて、この先どこまで行くのやら?

「仁がサヨナラヒットを打って、決勝戦!」 

文字を見るだけで、その喜びが一瞬にして、画面から押し出して来た。

8月28日
羽曳野ボーイズ主催、羽曳野大会準決勝が終わった瞬間
今話題の「LINE」から、嬉しさ爆発のメッセージが送られてきた。

羽曳野グレープヒル

ブドウ畑の中腹にあるグランドで、中学生最後の戦いに挑む切符を
自らの手で勝ち取った準決勝。

日の丸を背負った2番を外し、自チームの背番号8を背負い
センターに陣取り、大きな声で支持を出し続ける。
その指示が正しいのか?間違っているのか?
素人目には全く理解出来ないが、ライトスタンドよりのベンチに腰掛けて、その姿を見つめながら入って来る言葉は、思いつきのええ加減な言葉でしかなかった。

でも、それでいいのだ。

初回から打ち合いになるも、共に無得点で終了。
さすが決勝戦と思いきや・・・
対戦チームのあまりにも不甲斐無いプレイに助けられ、得点が重ねられて行く。

満塁を迎えての大ピンチに、青い空に吸い込まれるようなセンターフライ。
深く守っていた仁は、白い雲に吸い込まれないように前進、バックホームの体制でキャッチし、イチローのレーザービームも真っ青の、「ほんわか送球」でホームアウト!

見せ場は突然現れて、青い空をバックに、一瞬のうちに消えて行った。

打撃での見せ場も最終回に訪れるもの、満塁でなぜか?バントの構え
ツーストライクまで追い込まれて、腰砕けのスイングは、砂埃の上るホームの上で空を切る。

その瞬間・・・
仁の中学野球生活に、ピリオドが打たれた。

スーパー3年生と持て囃されていた頃の出会いを思い出す。
飛びぬけて優れていたわけではなかった。
破天荒な動きや、その行動に目を奪われて、ついつい目立つ存在だった事から、仁の本質を見抜く者がおらず、ただの厄介者扱いと、「腫れ物に触る」扱いが、ドッジと出会うまでの毎日だった。

4年生の頃
ひとり大和魂の背に魂のTシャツで、藤井寺の大会で完全優勝を果たした。
それをどう感じ、どう受け止めたのか?
翌日・・・
商工会に苦情の電話が鳴り響いた。

「障害者を出場させて、うちの子に怪我でもさせたら、誰が責任を取ってくれるんですか?」

信じられない言葉に、青年部員はその一部始終を録音
耳に入る恐ろしい言葉は、現代をそのままに映し出しているように見えた。

障害者

仁は医学的に言えば、その「障害者」の枠に入るのだろう。
でもそれは、「アスペルガー症候群」という、まだまだ医学では改名出来ない領域であり、やたらめったに危害を加えるような事はない。
ただただ純粋であり、誰よりも素直で、興味を引かれる事に、ついつい夢中になってしまうだけの事なのだ。

小さな体で、大きな体の大人から、数々の差別、区別を受け続けた仁

真っ暗な車の中で、言い聞かせた昨日の夜

「男と男の話し」

これかもっと、仁を襲う差別や区別が待っているだろう。
それは理屈の通らない、愛なんて全くない、ただただ理不尽な攻撃を受け、心を深く傷つけるだろう。
でも、誰も助けに行く事は出来ない。

甲子園

でっかい夢を掴むには、どんな事でも乗り越えて行かなくてはならない。
今以上に競争の激しい世界の中で、果たしてアスペルガー症候群とレッテルを貼られている仁が、戦い抜く事が出来るのか?

今まで観に行ったのは、練習試合が1回だけ。

でも、今日は・・・
最後の勇姿は見ておきたかった。

拳で伝えた想いを、シッカリと受け止めてくれたのか?
その背中を見ればすぐに分る。

ベンチまで走る姿、ベンチから走って来る姿。
センターから名指しで声を掛ける姿、バッターボックスに立つ、センスのない姿。

それらの全部が、青い空に吸い込まれ、白い雲が流れ、砂埃が舞うグランドでの姿を、忘れないようにシッカリと、瞼のシャッターを押して、海馬にインストールした。

明日、藤井寺市のミニコム紙の取材がある。
事前に、前回のここのブログを読んでもらい、仁のありのままを知らせ、感じ取ってもらっての取材になる。

同じ境遇で戸惑い、悩み苦しむ親御さん達も少なくないだろう。
でも、子どもを理解し、熱く情熱を注ぐ人に出会えたら、間違いなく素晴らしい道が開けてくる。
仁は、ドッジを通して、多くの仲間にめぐり会った。
中学をドロップアウトしたライバルもいれば、普通の中学生活を送っているライバルもいる。
そんな中、仁は日の丸を背負って、中国で野球をしてきた。

あと数ヶ月で、見知らぬ土地で、見知らぬ戦いが待っている。

この症状にとって、もっとも恐怖である、「環境の変化」に、どう対応出来るだろうか?
地元の中学に行く前にも、事前に学校側にお願いに上った。
そんな事はもう、やりたくても出来ない。

これから本当にひとりで、夢に向って走らなければならない。

有終の美を飾った中学野球人生
野球人として、情熱が全然伝わらない現実だが、後に引く事無く突き進め!

そう・・・
野球人でダメなら、誰もが呼ばれた事のない

野球仁として、でっかい夢を掴み取れ。



$花師論