妄想、BL(O×N)のお話です。BLの意味が分かる方、妄想とご理解いただける方のみお進みください。
《side O》
どれくらい交わっただろう。
もう出るものもなくなり和を抱きしめながら余韻に浸っていたけれど、腹がくぅーと鳴ってしまった。
ずっとこうしていたいけれどそうもいかない。
そろそろ和を送る時刻も近付いているしな。
夕刻前にきちんと送り届けないと潤さまにどんな仕打ちをされるか分かったものじゃない。
俺から和の記憶を消されても困るし。
仕方なく起き上がって
「和は腹は減ってないか?」
と聞くと、
「天人は腹が減ることはない。だけど、智の作ったものは何でも欲しい」
なんて嬉しいことを言ってくれる。
去年と同じように山菜で汁を作り、今年は鍋底を井戸水で冷やして汗をかかないくらいにしたものを2人で食べてからまた手を繋いで家を出た。
和を送っていくのはやっぱり寂しい。
和も同じように思ってくれているのか、言葉少なに2人で湖に向かった。
湖に着くとすでに潤さまが待っていて天の羽衣を用意していた。
また・・・忘れられてしまうんだな。
でもきっと、来年も和はここに来てくれる。
確信を持ちながら、それでも絶対ではないから。
未練がましく和の手を握っていたけれど、潤さまがふわりと和に羽衣をかけると固く握っていたはずの和の手がするりと抜け、こちらをちらりとも見ずに潤さまと共に光に包まれ空に昇っていった。
それから毎年、七夕の日に和は湖に降りてきてくれる。
毎年、初めて会ったようにお互いの名を交わし、山の幸を採り、体を重ね、飯を食う。
同じことの繰り返しだけどそれでも楽しくて、むしろ同じようにしないと来年和が来なくなるかも、と頑なに毎年同じようにしてした。
ただ、1つ違うのは和が俺を求めてくれるのがだんだん早くなっていること。
最近は名を交わしたらすぐに抱きついてきたり、なんなら湖で体を重ねたこともある。
もしかしたら毎年ほんの少しずつ俺の記憶が和の中に積もっていっているのかもしれない。
いつか、羽衣をかけられても消えないくらいの俺でいっぱいになればいいのに。
和を見送った後、静かに天の川に願いをかけた。
⭐︎⭐︎
《side N》
今年もまた、七夕の日がきた。
毎年この日は胸がざわざわとする。
下界なぞ何も用はないはずなのに、何故かあの湖に行かねばと居ても立ってもいられない。
ついてこようとする潤を「1人で良い」と止めて湖を目指した。
確かに綺麗な湖だが、なぜここにそんなにも惹かれるのか分からない。
潤を振り払って来たしせっかくなら水浴びでもするか、と衣を脱いで湖に入ると下枝を踏みしめる音がした。
まさか熊か?
衣がないと神通力も使えない。
やはり潤についてきてもらうべきだったか、と音のした方を見ると人間の男が立っていた。
この顔・・・知っている。
何故だ。
体の奥から熱が込み上げる。
この男に焦がれていたのだ、この男に会うためにここに来たのだと何故か分かる。
人間なぞ初めて会うし、名前すら知らないのに。
「そなた、名は何という?」
「智と申します」
さとし・・・智・・・。
ようやく逢えた。
その名を聞いた瞬間、どうしようもなく湧き上がる愛しさに導かれ智の腕の中に身を滑り込ませた。
Fin.
お付き合いありがとうございましたー😊
「陰陽師」の中で“名前はこの世で1番短い呪”という言葉が出てきます。
なので例えば「千と千尋」だと名前を取られることで自分が分からなくなったりするわけですが。
もしかしたら和と智はお互いに名前を預けたから、和の中に少しだけ智の欠片が残ったのかな、なんて思ったりします☺️
さて、明日からはさらに切ない系の大宮・・・続いてすみません💦
よろしくお願いいたしますー🙇♀️