妄想、BL(O×N)のお話です。
BLの意味が分かる方、妄想とご理解いただける方のみお進みください。
《side O》
体温が全く感じられないかずのほっぺたに体が動かず、触れたところから俺の体もどんどん冷たくなっていく気がする。
頭も冷たくなってって、目の前が暗くなってって・・・「大丈夫ですか?!」
看護師さんに背中を支えられ、また目の前がクリアになった。
ショックで倒れかけたようだ。
かずのご両親に抱きしめられ、「辛いのは俺だけじゃない。しっかりしなきゃ」って無理矢理気持ちを持ち上げる。
かずは同僚とお昼を取りに外に出ていて、後ろから刃物を持って走ってきた男に刺されたらしい。
男は両手に持った出刃包丁で次々に通行人を襲い、警察の到着を見ると自殺したそうだ。
こんな時、きっと犯人を殺してやりたいって思うんだろうなってドラマとか見て思ってたけど、喪失感が大きすぎて犯人への怒りどころか何の感情も湧いてこない。
病院の安置室にはあまり長い時間は居られないと言われ、病院から紹介された葬儀屋にいろいろ任せる形でかずを実家に連れて帰った。
これから身内への連絡や告別式なんかの準備をしなきゃいけない。
かずのご両親には「泊まっていって」と言われたけど、悲しみを堪えてあちこち連絡をしたり葬儀屋さんと話したりしているのを見ると気が引けて、「明日、また来ます」って家を出た。
玄関を出ると目の前には燃えるような夕日が俺を照らしていて、綺麗というよりなんだか怖かった。
しんと静まり返った自分ちに帰ると、途端に虚無感が襲ってくる。
こんなに広かったっけ?
こんなに寒々しかったっけ?
こんなにモノクロだったっけ?
何をする気にもなれず、スマホがピロピロ鳴ってるけど見もしないでベッドでぼーっとしていたらそのまま朝になっていた。
ざっとシャワーを浴びてまたかずの家に向かう。
途中で「そうだ。会社に連絡・・・」ってスマホを開くと相葉ちゃんからたくさんの着信、メッセージが入ってた。
申し訳ないけど今は誰とも話す気になれなくて、相葉ちゃんのメールは見ずに会社に有休の連絡だけ入れた。
かずのお葬式は家族葬で行うことにしたそうで、午後には俺の両親も来てお通夜、翌日に告別式を行った。
あっという間に白い小さな箱に納まってしまったかず。
悲しいはずなのに何も感じないし、涙も出ない。
俺の心も死んでしまったみたいだ。