妄想、BL(A×N)のお話です。BLの意味が分かる方、妄想とご理解いただける方のみお進みください。











《side  N》

「そろそろです」

まーくんを安全なところに移して準備が整った頃、七瀬さんから声がかかる。

「走って!」

GOの合図で暗闇に飛び込んだ。
そのままがむしゃらにただ真っ直ぐ全力で足を動かしていくと、そのうち前方に青い光が見えてきた。
あれが駅か。

このまま行けるか、と思った途端、
「妾の大事なペットを返せ!」
と少しハスキーな女性の大音声、それこそ耳元でスピーカーで鳴らされてるようなわんわんする声が響き渡り、何かが空気を切り裂いて追いかけてくる気配がした。

後ろだから姿は見えないけれど、背中がざわざわとして鳥肌が立ち、オーラというのか「気」というのか、確実にヤバいものが追ってきていると分かる。

「振り返らないで!そのまま走り続けて!」

つい後ろとの距離を確認したくなり、振り返ろうとしたら七瀬さんから声が飛んだ。
確かに振り返ってたら走るのが疎かになる。
再び走るのに集中した。

やがて青い光が大きくなってきて、ホームのようなシルエットがうっすらと見えてきた。
もう少しだ、と思った時、袴の裾をぐっと引っ張られて転んでしまった。
慌てて起き上がろうとすると今度は左足首を掴まれる。

駅の光でちらっと見えたそれは黒い巨大な蜘蛛のような形をした靄。
必死に振り解こうとしてもなかなか離れない。

どうしよう、電車が行っちゃう!

「髪の毛を投げて!」

七瀬さんの声にハッとして手に掴んでいた髪の毛をなるべく俺から離れたところに投げる。
必死すぎて髪の毛のこと忘れてた。
靄がするっと俺から離れ、髪の毛の方にうぞうぞと這っていく。

「私も撹乱しますから走って!」

紙人形が俺から離れ、靄の方に向かっていく。
その隙に立ち上がり、再び猛ダッシュ。
やがて駅のホームなんかがしっかり確認出来るようになってきた。

田舎の無人駅にあるような小さなホームが青い光に照らされて暗闇にぽつーんと浮かび、そこに紺色の機関車が蒸気を出しながら停まっている。

今までこんなに走ったことないってくらい走って、心臓は口から飛び出そうだし呼吸も苦しいし足ももつれそうだけど、目の前で機関車が汽笛を鳴らした。

やばい、発車の合図だ。
最後の力を振り絞って足を動かし、扉が閉まり切る直前、ぎりぎりでその隙間から中に滑り込んだ。