妄想、BL(A×N)のお話です。BLの意味が分かる方、妄想とご理解いただける方のみお進みください。
《side N》
よく見ないと見落としそうなくらい、かろうじて下草が少し払われている獣道のような登山道を登っていく。
けっこうキツイな・・・。
いつも入ってる山はわりとなだらかで、こんな急な登りは初めてかも。
すぐに息が上がってきて、こんな日が来るなら筋トレとかしてもっと体力つけておけばよかった、と後悔しながら黙々と登っていくと、登山道から少し逸れたところに小さな木の柱が2本立っているのが見えた。
これか。
事前に七瀬さんに聞いてなければ見落とすくらい景色に溶け込んでいる。
生い茂った草を踏み締め、そちらに向かうと柱と柱の間から冷んやりとした空気が流れてきて、やっぱり異世界への入り口なんだと感じる。
「着きましたね」
「うおぇっ?!」
不意に頭の中に声が響き、びっくりして変な声が出てしまった。
「私です。七瀬です」
懐にしまっておいた紙人形がするっと出てきて目の前に浮かび、ひらひらと手を振った。
入り口から案内してくれるとは聞いてたけど、まさか頭の中に直接語りかけられるとは思わなかった。
七瀬さん、すごいんだな。
「この柱の間を通ったらもう神の国に足を踏み入れます。
驚くことがあっても、今みたいに声を出してはいけません」
「はい」
それが1番難しい気がするけど、頑張らないと。
事前にもらっていたお札を胸の上に貼り付け、驚かないように出来る限り頭の中を無にしながら紙人形について柱の間を通り抜けた。
瞬間、がらっと空気が変わり、ただ真っ白な空間が広がった。
上も下も分からない。
道があるのかも分からない。
音もなく、自分がどうなっているのかも分からない。
奈落の底に落ちていくような感覚。
怖い。
1番怖いのは「無」なんだと思った。
「大丈夫。見えないだけで道はあります。怖いなら目を瞑っていなさい」
たまらず叫び出しそうになる寸前、七瀬さんの声が頭に響き落ち着きを取り戻した。
そうだ。マーくんを連れ戻さないといけないんだからこんなとこで怖がってる場合じゃない。
どうせ目を開けてても白しか見えないんだから、と目を瞑り「そのまままっすぐ。少し右に寄って」と七瀬さんの誘導に従って歩いて行った。