28年前、父は個室に入院中で、
鼻から胃にチューブが通っていました。
意識はありましたが、口から物を食べられない状態でした。
亡くなる前日、「六甲の水」が飲みたいと言いました。
ペットボトルの水を吸い飲みできるガラスの急須のようなものに入れました。
もう、口から何も食べられない状態でしたが、
父は、電動ベッドの背もたれを上げて、しっかりと水を飲みました。
飲んだ水は、胃の中に入れたチューブを通って、
直ぐに鼻から出てきました。
そしてチューブの先に取り付けられた袋に溜まっていきました。
その様子を見て、私も父も、笑ったように思います。
父は、水を何回もお代わりして、
飲んだ水が、直ぐに鼻から出てくる様子を見ていました。
結局、ペットボトルが、空っぽになる位、飲み続けました。
あの時、あんな状態で、あんなに水を飲んだのは、なぜだったのか分かりません。
そして、私も、なぜ、水を飲ませてあげたのかわかりません。
ただ、人って、死んでしまう直前まで、
遊び心を持てるというか、
何かを楽しむことができるんだと思いました。