論考-音楽ジャンル:チンピラロックを墓場から蘇らせるロンドンの最新型ゴスビリー | NMC - Music Recommendation and Discovery. Plus, more music from New Names.

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エイティーン・ナイトメアズ・アット・ザ・ラックス(Eighteen Nightmares at the Lux )
New Blood – No.329

Region : UK, ロンドン

Members : シモン・ジョゼフShimon Joseph:vo / g /accordion )、グレッグ・ゴールドGreg Gold:g)、ビッグ・コンストBïg Const:b / Harmonica)、アレックス・アレンAlex Allen:ds)

Sounds Like :クランプス(The Cramps)、タブ・ファルコズ・パンサー・バーンズ(Tav Falco's Panther Burns )、バースデイ・パーティ(The Birthday Party)、ホラーズ(The Horrors)、エイティーズ・マッチボックス・ビーライン・ディザスター(The Eighties Matchbox B-Line Disaster)、ジョニー・バーネット・ロックンロール・トリオ(Johnny Burnette and The Rock and Roll Trio)、デフ・スクール(Deaf School)、ハイヴス (The Hives)

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Turn On Tune In: Get To Know - Eighteen Nightmares At The Lux EIGHTEEN NIGHTMARES AT THE LUX - '6ft 6' [OFFICIAL VIDEO] EIGHTEEN NIGHTMARES AT THE LUX - 'Linger' [OFFICIAL VIDEO]

エイティーン・ナイトメアズ・アット・ザ・ラックス略してENATL。ロイヤルなファンは彼等を”ナイトメアス/ Nightmares”と呼んでいる。

ENATLが最初にメディアに取り上げられたのは2008年に遡る。英国ラジオ局BBC 6 Musicのスティーヴ・ラマック(Steve Lamacq)がDJを務める番組の「今週のデモ」のコーナーにENATLがデモ音源を送りスティーヴ・ラマックに「未契約のホラーズ(The Horrors)」と評される。それをきっかけにレコード・レーベルと未契約のアマチュア・バンドを集めたコンクールに出場し準優勝を勝ち取る。(このコンクールの別年度には、それぞれにデビュー前でメンバーが高校生だったボンベイ・バイシクル・クラブ(Bombay Bicycle Club)とケイジャン・ダンス・パーティ(Cajun Dance Party)、ホワイト・ライズ(White Lies)が争い、ボンベイ・バイシクル・クラブがウィナーだったことがある)。その後ENATLはドッジー (Dodgy)のUKツアーのサポート・アクトに抜擢されツアーに帯同される。


2010年1月に配信EP『Fuzz Candy 』を初リリース。2010年12月にセカンドEP『Draw The Curtain 』を配信リリース。2012年6月にシングル『Mother of Girl 』をリリース。これらは自主レーベル「Fuzzabilly Recordings」からのセルフ・リリースだったが昨年にUKインディペンデント・レコード・レーベル「Dust Devil Sounds」とサインアップ。ENATL は2014年2月10日に
Dust Devil SoundsからEP『Pig』を配信リリースしたばかりだ。


英紙、ガーディアンやデイリーミラーは彼等を「ゴスビリーgothabilly)」と銘打って読者に紹介した。


「このゴスビリーな奴等は、桑間濮上(そうかんぼくじょう)、わんぱくで始末におけない新しいロック・モンスターである」英ガーディアン紙。

ホラーズのファリスの弟タリクのバンド、ルームLOOM)を対バンとした昨年に私が見たエイティーン・ナイトメアズ・アット・ザ・ラックスのギグでは、ゴスビリーホラー・パンク・バンドがよくするようなメイクを彼等はしていなかった。昨年秋頃のパブリシティー・ショット(アー写)からメイクをしだしたようだ。

EP『Pig』のリリース・パーティで私はフロントマンのシモンに聞いた(オンレコのインタビューではない)。

ゴスビリーといわれることは望むところなのか?これまでにゴスビリーとして扱われたことはあったのか?」。

「我々のサウンドはファザビリー(Fuzzabilly)であると説明しプレスリリースしていて、自らをゴスビリー・バンドと名乗ったことはないが、自分たちがゴスビリー・バンドといわれることは不思議なことではない」と答えてくれた。ファザビリーとは言い得て妙だが、そのようなジャンルは今のところ一般化されていない。

フロントマンのシモンも認めているが、エイティーン・ナイトメアズ・アット・ザ・ラックスクランプス(The Cramps)の「子ども達」だ。

クランプス The Cramps - goo goo muck

クランプスはラックス・インテリア(Lux Interior : vo)とポイズン・アイビー(Poison Ivy:g) 夫婦を中心に結成された1976年ニューヨーク発のバンドでサイコビリーのプロトタイプでゴスビリーのパイオニアといわれるバンドだ。リズム・アンド・ブルース、ロカビリー・フォームを基調とし、60年代サーフミュージック、60年代ガレージロックをミックスさせたサウンドにブードゥー教のゾンビやホラー映画をモチーフにしたイメージとスタイルはガレージ、パンク、ロカビリーのサブジャンルに大きな影響を与えた。

そしてクランプスは、ホラー・ブルースhorror-blues)、ショック・ロックShock rock)と称されたスクリーミン・ジェイ・ホーキンス(Screamin Jay Hawkins)と、ロカビリアン・バンド、ジョニー・バーネット・ロックンロール・トリオ(Johnny Burnette and The Rock and Roll Trio)らの「子ども」だ。

スクリーミン・ジェイ・ホーキンス Screamin Jay Hawkins - I put a spell on you

ジョニー・バーネット・ロックンロール・トリオは、ギャロッピン奏法をベースにファズを加えロカビリーをバージョンアップさせたバンドだ。ビリー色のあるサブジャンルのバンドたちはジョニー・バーネットから大きな恩恵を授かっている。

ジョニー・バーネット Johnny Burnette Train Kept A Rollin'


ENATLのフロントマンのシモン・ジョゼフは創世期のロカビリアン、チャーリー・フェザースCharlie Feathers)やカントリー・ブルースのシンガー、ギタリスト、スリーピー・ジョン・エスティス (Sleepy John Estes) 、タブ・ファルコズ・パンサー・バーンズ(Tav Falco's Panther Burns )などに耳を傾けるヴィンテージミュージック・マニアのようだ

タブ・ファルコズ・パンサー・バーンズ Tav Falco's Panther Burns on Marge Thrasher 1979


「バンド名はエイティーズ・マッチボックス・ビーライン・ディザスター(The Eighties Matchbox B-Line Disaster)を真似たのか?」と聞いたが違うらしい。

エイティーズ・マッチボックス・ビーライン・ディザスターThe Eighties Matchbox B-Line Disaster


ENATLダーク・キャバレーDark cabaret)バンドのイベントに出演経験があり、キャバレーパンクcabaretpunk)とタグ付けされることもある。


論考 - ジャンル・ジャンル・ジャンル  -

「ロカビリー・リバイバルは2年おきにくる」といわれるぐらいに根強い人気があるが、そこから派生したビリー色をもつサイコビリーpsychobilly)、パンカビリーPunkabilly)、ゴスビリーにもニッチで小さなパイだが固定のファンがいる。

- ゴスビリー -
ゴスビリーはゴシックとロカビリーの混成語で1970年代後期のクランプス(The Cramps)をパイオニアとするロカビリーと漆黒のパンク・ロックを融合させた音楽傾向とファッションを指すサブジャンルでありサブカルチャーだ。音楽ジャンルとして大衆化され得るようになったのは1990年代半ば「Skully Records」からリリースされたゴスビリーのコンピレーション・アルバムが発端とされる。しばしばサイコビリーの下位セクトと見なされるが、サウンドのリバーブレーション、ジャングルドラマー、BPMで差異があり、初期サイコビリーのような荒ぶった攻撃性はない。ビリー色で繋がるサイコビリーパンカビリーとは兄弟だが、テーマあるいはモチーフになるのは、ヨーロッパのゴス文化のロマンチシズムとザ・マンスターズThe Munsters)やアダムスファミリーThe Addams Family)に代表されるホラーコメディである。ゴスロックのように実存主義哲学やニヒリズムといった知的なものを扱うことはなくキッチュな美学がアティチュードで、その点でホラー・パンクと親和性が高い。

ゴスビリー・カルチャーをフィーチャーする雑誌「Auxiliary Magazine」。

昨年のロンドン・ファッション・ウィークでのケイト・ナッシュ(Kate Nash)のゴスビリー・ファッション

パンカビリーサイコビリーゴスビリーのPinterestのページや小売サイトTumblrのゴスビリー

playlist - ゴスビリー


- ゴシック・ロック -

英国には根強い”ゴス”人気がある。

ゴシック・ロックは1970年代後半に生じたポストパンクやオルタナティヴ・ロックのサブジャンル。

プロトタイプはジョイ・ディヴィジョン (Joy Division )。1979年9月15日、プロデューサー、トニー・ウィルソン(Tony Wilson)はBBCのテレビ番組の為のインタビューでジョイ・ディヴィジョンを「”ゴシック”バンドだ」と説明した。以後、1979年にゴシック・ロックという用語が使われだす。1980年2月にメロディー・メイカー紙が"masters of this Gothic gloom"とゴシック・ロックの特集を組んだ。音楽批評家ジョン・サヴェージ(Jon Savage)は「イアン・カーティス(Ian Curtis)がゴシックの決定的な体現者だ」と記した。

ジョイ・ディヴィジョン Joy Division – Shadowplay Joy Division - Love Will Tear Us Apart [OFFICIAL MUSIC VIDEO]


そしてもうひとつのプロト・ゴスとしてはスージー・アンド・ザ・バンシーズ (Siouxsie & the Banshees)があげられる。ゴス期は1978年~1983年。

スージー・アンド・ザ・バンシーズ Siouxsie & The Banshees Metal Postcard (Old Grey Whistle Test 7/11/1978)


バウハウス(Bauhaus)が1979年8月にリリースしたデビューシングル『ベラ・ルゴシシズ・デッドBela Lugosi's Dead)』が本格的なゴシック・ロックの最初のレコードといわれゴシック・ロックの始祖ともいわれる。バウハウスは1983年の解散までゴシック・ロックのスタイルを貫いていくことになる。

バウハウス Bauhaus - Bela Lugosi's Dead


UKパンク・バンド、グロリア・ムンディGloria Mundi
ギグの対バン相手だったグロリア・ムンディを見て衝撃をうけた
バウハウスは音楽とプレゼンテーションを変えた。グロリア・ムンディに影響され無地のジーパンにTシャツのバンドから漆黒のバンドに変えたのだ

グロリア・ムンディ(Gloria Mundi)は1978~1979年まで4枚のシングルと2枚のアルバムをリリースしている。グロリア・ムンディはもうひとつのゴシック・ロックのパイオニアだ。

playlist - グロリア・ムンディ


ゴシック・ロック/ゴス・ロックがジャンルとして広く大衆に認知されたのは1983年になってからだ。

バットケイブ
1982年7月に開店されたロンドン・ソーホーのナイトクラブ、バットケイブBatcave)がゴスカルチャーの発信基地になった。このゴート族(ゴシック愛好家)のサロンに多くの有名人が訪れファッションデザイナーたちにも大きな影響を与えゴシック・ファッションが普及されることになる。クリスチャン・ディオールはバットケイブの客からデザインのインスパイアを得ていた。音楽ジャンルとしてゴス色があるバンドをバットケイブと呼びもする。この先もあまたの逸話とヒストリーがあるがここで留める。


- 音楽ジャンルとは -
音楽ジャンルを音楽文化の消費の為のセグメント分けの道具としか見なさないというのは産業論的な視座に立っているということだ。ジャンルにはもっと重要で別なファクターがある。

ジェイソン・トインビーは著書「ポピュラー音楽をつくる―ミュージシャン・創造性・制度」の第四章で「音楽ジャンル」を分析論考している。

ブルデュー社会学の人間が社会化されるメカニズムを説明する概念ハビトゥスの社会的に獲得された性向の総体と「場」の関係からトインビーは音楽ジャンルの重要性を説いている。

「ジャンルの束縛によって、音楽を構成する響きを生産的に秩序づけるための根本的な条件が用意されるとさえ言えるかもしれない。」

ジャンルの不安定性を踏まえたうえでも、テクスト生産のレベルにおいては、ジャンル概念なしでは何も為しえず、ジャンルは創造的動作に欠かせない出発点を提供するもので、またミュージシャンの創造の場だけで成り立っているのではなく、音楽ファンといった需要者や産業側も含めてジャンルは横断的な共同体を作る。

そして各々が社会的作者となりサブカルチャーができあがる。ゴシック・ロック、サイコビリー、ホラー・パンク、ゴスビリー。


それはさておき、エイティーン・ナイトメアズ・アット・ザ・ラックスには、古き良き時代の悪ガキどもが愛したチンピラロックを墓場から蘇らせて欲しい!! 


playlist -ゴシック・ロック+ ポジティヴ・パンク
playlist –オールドスクール・ゴス + ゴシック・ロック 
ホラー・パンク・バンド 10傑 playlist – サイコビリー