review |アルバム・レビュー:180 /パーマ・ヴァイオレッツ Palma Violets | NMC - Music Recommendation and Discovery. Plus, more music from New Names.

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First Impression :  Palma Violets - 180



イギリスのウェブサイトがパーマ・ヴァイオレッツに言及するときに「NMEのハイプガー」がなかば枕ことばになっている。

ガレージロックとサイケに根ざしボーカリストはジム·モリソンやイアン·マカロックに比較されキーボーディストはレイ・マンザレクを引き合いに出されるこの新人バンドのデビュー・アルバムに期待と当惑が入り混じって迎えれるのはもはや
止むを得ない。事実としてバンドはNMEに破格の待遇を受けた。前言の枕ことばも無理からぬことだろう。

パーマ・ヴァイオレッツがシークレット・ギグなどを開催しているロンドンの南部ランベスにあるアート・スペース「Studio180」がアルバム・タイトルになっているように本作は「Studio180」を拠点に彼らの等身大の体験でもってロンドンの情景が描かれている。

そこにはセレブになったバンドや中年のバンドには体現できない純度の高いリアルさがあり英国のロック・ミュージックに横たわる「夢」が壮大なスケールと甘く切ないサウンドで奏でられている。

本作のプロデューサーを務めたのはパルプ (Pulp)のベーシストのスティーヴ・マッキー。

オープニング・トラック"Best of Friends"は明確に傑出したトラックである。なによりもUKロックのあまたと輝くギター・リフに付け加えたくなる素晴らしいギター・リフが躍動しエネルギッシュなボーカルとエピックなサウンドのスケール感がこのバンドの心意気を体現している佳曲だ。

目詰まりを起こしてるいるかに見える若手UKギター・ロック・バンドであるが、ライブ・パフォーマンスで勝ち得たファンからの絶大なる指示を持つトゥー・ドア・シネマ・クラブ(Two Door Cinema Club)にはポップフックなラインを軽快な単音弾きのリフで編み出す名手サム・ハリデーがいるし、そのTDCCを押さえて鬼門のセカンド・アルバムで英国アルバム・チャート1位を獲得したヴァクシーンズ(The Vaccines)には巧みなエフェクター使いと意表を突くフレーズと技巧的なソロをもって奥行きのある音場感を提供する
腕達者フレディー・カァワンという名ギタリストがいる。

パーマ・ヴァイオレッツも彼らに匹敵する素晴らしいギター・リフを所持している。

オープニング・トラック"Best of Friends"はUKギター・ロックの救世主とハイプされたパーマ・ヴァイオレッツが先手必勝よろしく懐疑的なリスナーをも首肯させるべくの先制パンチだ。

オルガン風の音色が聖歌のような響きをもたらすM02"Step Up For the Cool Cats" M03"All The Garden Birds" はヴァクシーンズ以降ともいえるコラール・ロック・グループのセント・スピリット(St.Spirit)や
スウィム・ディープSwim Deepなどの新人バンドと共通するここ最近のUKロックのトレンドである聖歌的響きをもつサウンド・スケープだ。

単純なコード進行の M04"Rattlesnake Highway"はクラッシュの"IFought The Law "を思わせる荒々しいパンク・ナンバーだが、ここでもドアーズ(The Doors)のレイ・マンザレクのようなオルガンの音色が挿入されサウンドのエコーによる音場感もあり騒々しく怒鳴り合うかのようなボーカルスタイルであるのに仄かに厳粛な芳香が漂う。

この荒々しさと荘重の二律背反がパーマ・ヴァイオレッツの肝だ。

さらに荘重的な重さがますM05"Chicken Dippers"は幾分実験的でチャレンジングなサウンドになっており絶妙なリバーブのトーンがエピックな世界観を際立たせている。

3コード進行のM06"Last of the Summer Wine"は単にヴァクシーンズのジャスティン・ヤングのトラックではと思わずにはいられない。キーボーディストのピートのタイムアウト設定とギターリフには非凡さを感じるが.....。

M07"Tom the Drum" はディストーションが施されジュリアン・カサブランカスのオマージュのようなボーカリングとローリング・ストーンズ (The Rolling Stones)を彷彿とさすリフ。ギミックは平凡。まさにフィラー。大きな可能性を秘めたバンドのデビュー・アルバムに打つべきトラックでないだろう。(※フィラー(Filler)とは捨て曲のこと)。

M08"Johnny Bagga' Donuts"、アルバムの中で最悪のトラックとはいえないがこれも不味いチキンのディナーだ。キーボードリフ、ドラムパターン、ベースラインそれぞにバリエーションをもっているが音場感に奥行きがないトラックは旋律が同時的に堆積することが僅かばかりで「ギター・ロックの救世主」と呼び難く駄曲が連なる。

M09"I Found Love" 90sオルタナティヴ・ロック・マナーのリフから始まるこのトラックはバンドがAWOL(無断外泊)して最終的には戻ってくるかのような示唆的な構造になっていておもしろい。

M10"Three Stars" メロディックなプロトパンク・ナンバーでアルバムの中で最高のリフとサム·フライアーの鮮明かつ最も率直なボーカリングがひかる。

M11"14"、バンドのふたりのフロンマトンのサムとチリが初めて創ったトラックがこの"14(フォーティーン)"。ゲロまみれの14番の深夜バスについて歌われている。

泥酔している僕らを「14番のバスよ、僕の家に連れてっておくれ」と。


前半の弱いインストルメンテーションからうわごとようにリフレインされるフレーズはメッゾフォルテからフォルテとなり激情の選手宣誓となる。このトラックに人生のメタファーを見出すことも可能だがセンチメンタルな音景の中に確たる野心の炎をバンドが燻らせておりギグでは聴衆と同盟関係を結ぶにうってつけのナンバーになっている。

パーマ・ヴァイオレッツのデビュー・アルバムを聴いて包み隠さずにいえば「UKギターロックの救世主」はなんのことはないヴァクシーンズだったという念押しだ。それは昨今の教会で演奏しているかのような音場感をもったインディー新人バンドたちの台頭からも伺える。

パーマ・ヴァイオレッツの"180"は2013年にわたしが最も聴くことになるだろうアルバムには成り得ないが、未熟者だからこそ見ることができるロンドンの刹那のシーンが楽曲には溢れロンドンの街を歩きながらパーマ・ヴァイオレッツを聴き我に返った折に自分が救われていることをふと実感する。そんなアルバムになりそうだ。

01. Best of Friends
02. Step Up for the Cool Cats
03. All the Garden Birds
04. Rattlesnake Highway
05. Chicken Dippers
06. Last of the Summer Wine
07. Tom the Drum
08. Johnny Bagga’ Donuts
09. I Found Love
10. Three Stars
11. 14

未熟な刹那の光りが眩しいデビュー作

Author rating: 5/10
★★★★★

180/Hostess Entertainment

CD (2013/3/6)
ディスク枚数: 1
レーベル: Hostess Entertainment
ASIN: B00AQ3EQFQ
EAN: 4582214509327


"Best of Friends"


 "Last of the Summer Wine"