医師の過労死についての考察(その9):神経が休まらない | 健康は みんなのもの ~皮膚科医のブログ~

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医師の過労死はなぜおきるのでしょうか。

◆交感神経と副交感神経

私達の体を調節しているのが自律神経です。
自律神経は交感神経と副交感神経に分かれます。


交感神経は、体を「闘うモード」にする神経です。
交感神経が働くと血圧は上がり、心拍数は増え、血管は収縮し、筋肉は緊張します。


反対に副交感神経は、体を「リラックスモード」にする神経です。
このとき、血圧は下がり、心臓はゆっくりになり、血管は開き、筋肉はゆるみます。

 



自動車にアクセルとブレーキが必要なように、

体にとって、この二つの神経はどちらも必要です。
アクセルばかりふかしていては車はオーバーヒートを起こしますし、

ブレーキばかり踏んでいても、体はなまってしまいます。


自律神経の調節が上手くいかないと、いろいろな病気になります。

◆休み中もアイドリング

働くときは一生懸命働き、休むときはしっかり休むというのが理想ですが、

医者の仕事はどうなっているのでしょうか。

仕事とプライベートの境界があいまいであり、働く時間も不規則です。
陸上競技でいうと、100m走でもマラソンでもありません。


ベルが鳴って400m走りなさいと言われ、

またベルが鳴ると今度は5000mを走れと言われます。
いつベルがなるか分かりませんし、どれだけ走るのかも分かりません。

休憩時間、体は休まっても心は休まりません。

いつでも走れるように、神経はアイドリングをしているからです。



◆ベルは始業の合図

自律神経が常にアイドリングをしていることを示す話があります。


旧友たちと温泉旅行に行ったときのことです。
医者3名、その他の職業5名が、大広間で宿泊しました。
真夜中、部屋の電話のベルが鳴りました。
間違い電話なのか、しばらくすると切れてしまいました。

翌朝のことです。
「昨日、電話たいへんだったね」
「ほんと。間違い電話かな。ちゃんと確認してかけてほしいね」
「えっ、何のこと?」
「電話がかかってきたの?」

8名で意見をすり合わせてみると、

電話のベルで目を覚ましたのは医者の3名でした。
 

病棟からや救急外来からの呼び出しは「ベル」であり、

医者にとって「ベル」は、始業の合図です。

ベルを聞き逃さないよう、

寝ている間も神経がアイドリングしているのでしょう。

◆医者は交感神経労働

自律神経を乱れさせる最も大きな要因が「当直」でしょう。
若い医師は当直をたくさんしなければなりません。

人間の体には体内時計があり、同じ6時間寝ても、

「0時から6時」と「2時から8時」とでは、体に与える影響が大きく異なります。


0時から3時の間に、成長ホルモンをはじめ、重要なホルモンが分泌されますが、

起きていると分泌されません。
このゴールデンタイムを逸してしまったら、3時に寝ても、

時すでに遅しで、ホルモン分泌は不十分で終わってしまいます。

当直中、急患や入院患者さんの急変のため「ベル」で起こされます。
そんな生活を続けながら、交感神経と副交感神経のバランスを保っていくのは難しいことです。

医者は肉体労働なのか、感情労働なのか。
筋肉を酷使する仕事ではないので肉体労働ではなさそうです。
叱られたり、腹が立つことが極めて多いわけではないので感情労働とも言えません。


強いて言えば、

常に緊張とアイドリングを強いられる「交感神経労働」と言えるのではないでしょうか。

               ~その10につづく~