中国の獣医学(中獣医学)とFIP、そのFIPの中医学的な原因、FIP発症を左右するもの | FIPの漢方薬による平癒と中獣医学の普及と発展を求めて

FIPの漢方薬による平癒と中獣医学の普及と発展を求めて

・・・・・エムちゃん、マーちゃん、ソラちゃん闘病記より

中国の獣医学(中医学)とFIP

日本では、中医学を用いる獣医さんは、ごく少数ではいるようですが、日本漢方の薬局の方たちのFIPへの漢方処方も有るようです。
中医学の本家である中国には現代医学の西洋医学こと西医と、中医学による中医の医師の両方が有り、その両方を用いるのは中西医と言われて人間でも犬猫、猪(豚)牛馬、禽でも同じように有るようです、では、中国の獣医学(中西医)ではFIPの治療と処方は、どうなっているのでしょうか。
10年ぐらい前に入手した中国で出版された中国農業出版社「畜禽疾病中西医防治大全 犬猫疾病」では、FIPは「猫伝染性腹膜炎」、「猫冠状病毒感染」と名称されています、FIPについては現代医学的説明のみで、中医学的な原因の記述は無くて、FIPへの中医学としての処方も無くて不能治癒とされています。

東京の「三景書店」から購入しました、中国の出版物を多く扱っているようです。


つまりは、中国の獣医学(中西医)でもFIPへの処方は無く、不能治癒とされていることは、日本の獣医学と同様であり、対症療法的にステロイド剤を用いていることは全く日本の現状と何も変わらない。
日本でも、中国でも中医学的なFIPの原因が全くに不明なので、戸惑っているのが中医学を用いる獣医さんと中獣医さんの現状かと思います。何故に中医学でも不能治癒とされているのでしょうか、現代医学的にはFIPの原因と発症の機序は不明、由って治療方法も不明、即ち解らず、同様に中医学でも、その中医学的な原因は不明、由って其の処方も作れない。


FIP闘病20余年の経験から得たFIPの中医学的な原因、その外因と内因

中医学の外因と内因

神戸中医学研究会編著「中医学入門」のP.3の記述に「・・・疾病が発生する根本原因は人体の「内因」にあり、外界変動による「外因」は単なる発病の条件である・・・「外因は内因を通じてはじめて発現する」・・・と在ります。
外因とは、人の周りの自然環境であり、「・・・物理的な環境を指すと同時に、細菌・ウィルスなどの発病性物質や飲食物を含めたもの・・」とされ、「・・・人体は内部の調節によって自然環境の変化に適応して、正常な生理的活動を保持して・・・外界の変動が適応能力を超えた・・・或いは人体内部に機能失調や機能低下がある為に外界の変化に適応できない場合には、疾病が発生する」とされ、内因とは人体の生理的機能の過不足、失調と亢進、として理解できる。
ここで、人を猫に読み替えれば、猫の疾病の外因とは、猫の周りの自然環境であり、物理的な環境を指すと同時に、細菌・ウィルスなどの発病性物質や飲食物を含めたもので有り、内因とは猫の生理的機能の過不足、失調と亢進である。

是は初版本です、1995、6年ぐらいに購入しましたか、今は第二版本が出ているようです、表紙がカラー刷りのやや薄いものに成っています。

 


FIPの中医学的な外因

FIPの中医学的な外因については、発病性物質であるコロナウィルスであることは、現代医学的にも中医学的にも論を待たないでしょう、しかし、中医学的にはコロナウィルスだけでは無くて、コロナウィルスが起こす腸炎も外因として考えられること、此の腸炎が免疫の亢進をひき起こし、免疫の亢進と云う内因の原因と為る。
ブログの記事の中でも、何度も記したように「中医学入門」に拠れば、「腎は精を蔵し、発育・成長・生殖を主り、水液を主(つかさど)る・・・骨を主り、髄を生じる・・・」とされて、腎の未熟、未発達は人の未熟、未発達、腎の老化は、人の老化とされ成長に関わり、発育不良は腎の発育不良、これがFIPの根本的な発症の原因であり即ち発育の不良、腎陰の未熟、未発達は又は老齢による腎陰の衰え、腎蔵の萎縮、退化、是らは中医学で謂う所の腎陰が虚した状態、腎陰虚(じんいんきょ)であり、「中医学入門」のP.25の記述の「・・・免疫能に関していえば、腎陽は免疫能の亢進に、腎陰は抑制に関連し、両者が協調することにより免疫監視能が維持される。」と有り、腎陰虚により腎陽(陽気)が暴走して(陰虚火旺=いんきょかおう)に為り免疫監視能が狂って、抗体が異常に産生される。


是が中医学的な内因として考えて、陰虚火旺に対して虚した腎陰を滋陰して火旺(高熱)には清熱(熱を冷ます)ことを方針として、その為の滋陰する処方として現在に於いては「左帰丸加減方」を、清熱するための処方として「知柏地黄丸加減方」を作成して来た。
此の「左帰丸加減方」と「知柏地黄丸加減方」は、FIPの初期と前半に在っては能く反応して、高熱を解熱してγ-グロプリンの値を下げて抗体の亢進を抑制できたが、後半には腸炎も盛んに為り下がった高熱も再度、上がって来るように為り、下痢と喫飲食不能により体重の減少が生命維持の限界を超えて衰弱して死に至る。

重要なことは、此の腸炎により飲食物が未消化で栄養の吸収不可能に成っていること、腸炎の初期、前期では、ふん便は黒いねっとりとした悪臭(異臭)の在る便、泥状便、下痢便から進行して、後期、末期には表面は乾いてくすんだ黒色に為っている、此れは腸管(小腸も大腸も)の粘膜が枯渇、分泌できないことを示して、腸管の瘀血(おけつ=炎症などによる滞留した血、血管外への溢出など)、或いは出血が腸管内に出ていることを示すものであること、腸管が粘膜を分泌出来ないほどに炎症と乾きが進んでいれば、腸管の修復も回復も出来ない、此れでは腸不全に成り腸管が死んでしまい、是により命が絶たれることに為る。

腸炎の原因は何か

 是の腸炎がFIPの炎症即ち血管炎に由るものならば、抗体の亢進を抑制して炎症(血管炎)が収まり、高熱も治まり平熱まで下がってくれば、この腸炎も治まっているはずなのですが、熱も平熱か、平熱近くまで下がってきてから、喫飲食量が落ちて異臭有る便や下痢便をするようになり、腸炎が盛んに為ってくることを示すように為ります。
是の腸炎がコロナウィルスによるものならば、「抗体の亢進」と言う免疫の亢進を抑制するだけでは腸炎の治療に為らず、ステロイド剤を用いる免疫抑制は、逆にコロナウィルスの増殖の促進に為るのではと考えられ、腸炎の増悪と為るのではと深く疑う。
是の腸炎への処方として「清腸消炎湯」を作成して服用するように為ってから、ステロイド剤を使用していない猫ちゃんは、「左帰丸加減方」、「知柏地黄丸加減方」も併用して、腸炎も高熱も治せるように為るも、ステロイド剤を使用している猫ちゃんは、「左帰丸加減方」、「知柏地黄丸加減方」、「清腸消炎湯」を併用しても高熱の再発とともに腸炎が酷く成り、助からなかったことを考慮すれば、腸炎の主因はコロナウィルスに拠るもの、FIPの血管炎に由るものでは無いと考えることが妥当かと思っています。
是のコロナウィルス、コロナウィルスによる腸炎は外因と為る、即ちコロナウィルス、腸炎と言う病邪の実在であり、病邪の実在は中医学の言う所の「実証」である。

 


FIPの中医学的な内因

その外因の腸炎が猫ちゃんの胃腸を害して、その作用、働きを乱して新たに内因を発生させ、免疫の亢進をひき起こす、其の中医学的な内因の機序はどのようなものか。

その第一の内因は腎陰虚(じんいんきょ)であること

ブログの記事の「FIPの治療に用いた漢方薬、その成功と修正の部分」に記したようにFIPを発症した猫ちゃんたちの多くは、1、2才未満の子がほとんどで、ごく稀れに10才過ぎた老猫が罹患しましたが、発症した幼猫、子猫たちは兄弟たちと較べて体が小さい、発情しなかった、即ち発育の不良、老猫は老齢による衰えなどは、発育・成長・生殖を主(つかさど)る腎陰の未発達と未熟、萎縮・退化などによる腎陰虚が、免疫能の抑制から外れて、亢進への基に成っているかと思います。
特に幼猫から子猫への移行期は、二ヵ月齢前後からの歯が生え始めて、離乳して喫飲食が始まり、まさに骨格が成長して大きく成る頃は、腎の発育・成長・生殖の機能が最大限に発揮され、骨格の成長、発達と共に腎自体(腎陰)の発育・成長も必要に成り、二重の成長に為るので其の意味ではインフレーション的に腎の発育・成長・生殖の機能の発現に成っているかと思っています、別な見方をすれば腎に発育・成長・生殖の負荷が最大限にかかった状態でいる所に、腎自体(腎陰)の未発達・未熟からの成長が、遺伝などの先天的なもの、環境や栄養などの後天的なものに阻害されれば、腎陰が虚して、腎陰虚の状態に陥いり腎陽の亢進と為り、FIPの発症の下地ができる。


その第二の内因は脾克腎(脾は腎を克す)の過剰による(相克の過剰なので、相乗とも言います)、が脾陽の亢進を引き起こして是が腎陰を抑制すること、即ち過剰に腎陰虚を促進させること


脾は脾(胃)とも言われ、現代医学的には胃腸のことに為ります。
中医学の言う所の五臓の腎・肝・心・脾・肺には、相互に相生(そうせい)と相克(そうこく)の関係が有り、是の相克である脾克腎(脾(ひ)は腎を克(こく)す = 脾陽は腎陰を抑制し、脾陰は腎陽を抑制すること)がコロナウィルスの腸炎に拠り、過剰に脾陽の亢進を引き起こして是が腎陰を抑制して、特異的に腎陰虚を際限なく促進させることに為る。
ブログの記事の「清骨散加方修正方」に記したように、FIPにより腸炎(小腸)が進行して脾陽の亢進、脾陰の枯渇が起きて、是が過剰に腎陰を抑制することに為り、漢方薬で腎陰を滋陰(滋養)することを妨げる。そして此れが「左帰丸加減方」、「知柏地黄丸加減方」などの漢方薬、ステロイド剤が効かない、無力に為る唯一無二の原因と為ります。


中医学の五行学説に基づく五臓の相互の関係、相生(そうせい)と相克(そうこく)について


中医学の言う所の五臓は腎・肝・心・脾・肺であり、「中医学入門」のP.18の記述に「臓腑は・・・実際にはさまざまの生理的・病理的な現象を解剖学的名称の臓腑に帰納させ・・・現象にもとづいた機能的構成単位とでもいうべきもの・・・それゆえ、西洋医学にある同名の臓器と・・・異なったものである。」として、中医学の基礎、背景、原初的な世界観(認識)である五行学説に基づいて、腎・肝・心・脾・肺の五臓の概念と機能を説明している。

五行学説

五行学説と、五行学説に基づく五臓の相互の関係の説明は、「中医学入門」ではその記述に紙面を当てておらず、現代医学的な解釈を併せ以って中医学の理論を説明していて、五臓の相互の関係の概念である相生(そうせい)と相克(そうこく)についての説明は無い。

此れも、東京の「三景書店」から購入しました。


東洋学術出版社の日中共同編集の「中医学の基礎」のP.20の記述に「五行学説では、宇宙間のすべての事物はすべて木・火・土・金・水という5種類の物質の運動と変化によって生成する・・・五行(木・火・土・金・水)の間の「相互に生み出し、相互に制約する」という関係によって、すべての物質世界の運動と変化を説明している。」と在り、P.21の記述には「・・・相生(そうせい)とは相互産生・相互助長のことであり、相克(そうこく)とは相互制約・相互抑制のことである・・・これによって自然界の生態バランスと人体の生理的バランスは維持されている。」

また、相生と相克には順が有り、「五行の相生の順序は、木生火・火生土・土生金・金生水・水生木であり・・・相克の順序は、木克土・土克水・水克火・火克金・金克木であり、これが無限に循環する。」と在る。

五臓は「木・火・土・金・水」が、それぞれ「肝・心・脾・肺・腎」にあたり、「木生火(木は火を生ず)・火生土・土生金・金生水・水生木」は「肝生心(肝は心を生ず)・心生脾・脾生肺・肺生腎・腎生肝」に成り、順番に「肝→心→脾→肺→腎→肝→・・・」と相互に生じるを資け、循環する。

また、「木克土(木は土を克す)・土克水・水克火・火克金・金克木」は、「肝克脾(肝は脾を克す)・脾克腎(脾は腎を克す)・腎克心・心克肺・肺克肝」に成り、順序は「肝→脾・脾→腎・腎→心・心→肺・肺→肝」と相互に抑制する。

五臓の相克関係

「中医学の基礎」のP.23、24の記述に「肺(金)気は粛降すなわち下降することにより、肝陽の上亢を抑制し、肝(木)はその条達という作用により、脾気が滞らないように疏泄を行っている。脾(土)はその運化機能により腎水が氾濫しないように制御し、腎(水)はその潤す作用により、心火が亢進しないように防止している。そして心(火)はその陽熱という特性により、肺金の粛降が過剰にならないように制約し、この肺の粛降作用がまた肝を抑制するというようにたえず循環が行われている。このような五行の相克関係に一致する相互克制の循環がたえず行われている。」と説明していますが、私のような素人には是だけでは能くわからず、具体的にどのようなことか、どんなイメージなのかが、全くわからないので、専門家にもなかなかに理解しがたいことかと感じます。


相克関係による伝変について

伝変とは、「中医学の基礎」のP.24の記述に「・・・臓腑間の病理的影響とは、本臓の病が他の臓へと伝わり、他の臓の病が本臓へと伝わることを指す。これは「伝変」ともいわれている。」、その一つに相克関係による伝変が有り、FIPの場合は脾克腎(脾は腎を克す)の相乗(過剰)になるので、脾の病変(腸炎に由る脾陽の亢進)が腎に伝わった病変(腎陰虚の亢進)の伝変と言えるでしょう、同様にP.24の記述に「・・・相克関係により伝変した場合、相乗によるものは重症・・・であることが多い。」としてます。まさに、FIPの場合がそうです、「相乗によるものは重症」と言う中医学の指摘は卓見でしょう、身に染みて感じます。
五臓の相互の関係の相克の中の脾克腎 = 脾→腎、脾は腎を克す即ち脾は腎を抑制する相克(そうこく)の過剰(相乗)により、脾陽は腎陰を抑制して此の伝変がFIPの免疫の亢進の発生もしくは増悪の推進器と為る。


ここまでの道のり

中医学では「免疫能に関していえば、・・・腎陰は抑制に関連し」ているとされ、その故に腎陰虚を呈したFIPの抗体の亢進には、「左帰丸加減方」、「知柏地黄丸加減方」を用いてきたにも関わらず、途中から効かなくなるのは、腸炎がが深く関わっていると、経験的に実感してもその中医学的な原因と機序が不明だった、「FIPへの処方」を変えました。」(ブログの記事 2012-09-30)より、その答えを探し求めた数年間でした。
私がいつも参考にしている神戸中医学研究会編著「中医学入門」、「中医臨床のための中薬学」、「中医臨床のための方剤学」、東洋学術出版社「中医学の基礎」の是等の書籍だけでは、私のような素人には答えを見い出せなかったのでしたが、インターネットのブログの「若武者たちよ!夢はみたか?」の中の「脾克腎」の記事を発見して、上記のような自分なりの答えを出せました。
ただ、此の「脾克腎」のもとである「中医理論解明への思考」は、ブログ主は仮説とも言っていますので、中医学界の主流或いは認知されたものでは無いかも知れませんが、五臓の「肝・心・脾・肺・腎」の相生と相克の関係が現代医学からの見地で明らかにしている点に優れて、かなり有力な学説かと素人ながらに感じます。

< 参 照 >

中医理論解明への思考  http://tougouiryo1.blog133.fc2.com/blog-category-28.html

腎克心         http://tougouiryo1.blog133.fc2.com/blog-category-28.html#entry642

脾克腎         http://tougouiryo1.blog133.fc2.com/blog-category-28.html#entry641    


まとめ、その第二の内因の脾克腎(脾は腎を克す)の相乗が示すもの、是がFIPの発症を左右する
                                                                                                  

FIPの発症は、外因としてのコロナウィルス、コロナウィルスによる腸炎を感受して、その第一の内因の腎陰虚が下地に為って、その第二の内因の脾克腎の相乗が発現して起きる。
腸炎が起きても軽症か、早期に治れば、脾陽の亢進は軽いか治り、脾による過剰な腎陰への抑制は起きないので、FIPの発症は起きない、また、腸炎を感受しても腎陰が虚していない、強盛ならば脾による腎陰への抑制は過剰にならないので、FIPの発症は起きないことに為ります。
このような違いが、成猫や老猫、幼猫、子猫たちのFIPの発症の有無の違いを生じるのでしょう、またFIPの発症の予防と再発防止には腎陰虚に為らないように、左帰丸加減方や六味地黄丸、知柏地黄丸などをしっかりと服用して腎を滋陰することが大切かと思います。
外部からのコロナウィルスによる感染の有無はともかくとしても、猫ちゃん自身の問題として腎陰虚が起きやすい時期は、幼猫から子猫への移行期の二ヵ月齢前後から二歳過ぎに為るまでの成長期と加齢して壮年期から老年期の頃で、子猫から二歳齢は、特に成長期なので腎への負荷も大きいので、わりと腎陰虚に成り易いのでしょう、壮年期から老年期は加齢、萎縮、退化などにより腎は衰えますが、腎への負荷は成長期よりは減少しているので相対的にはずっと腎陰虚に成るのは少ないかと思います。

FIPは、コロナウィルスに拠る腸炎が外因と為って、内因の脾克腎(脾は腎を克す)の脾による過剰な腎への抑制である相乗を発現させて、際限の無い免疫の亢進をもたらす、類い稀な病と言えるでしょう、まさに中医学の「外因は内因を通じてはじめて発現する」の指摘を最も惨い形で具現化された猫ちゃんの病でしょう。