こんにちは、がんチャレンジャーの花木です。


5年以上前、「『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』を読んで感じたこと」という記事を書きましたが、今回は著者であるプロサッカー選手・早川史哉氏のの続編をご紹介します。



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早川選手は、2016年に白血病を宣告されながら、治療の末、プロサッカー選手として復帰され、2019年から今日までJリーガーとして活躍されている。

前作は、宣告〜治療〜復帰の過程が中心の内容だったが、今作は、復帰後の長きにわたる苦悩や葛藤が赤裸々に綴られている。

周囲の方はとかく、治療が終わり、社会復帰できればそれだけでハッピーエンドとしてとらえがちだ。

ところが、がんや大病というのは、たとえ治療がうまくいったとしても、その後、社会復帰していく中で、本人に小さくない影を落とし続ける。

早川選手も例外ではなく、発症前のパフォーマンスをなかなか取り戻せず、何度も悔しい思いをしたという。

それは1年や2年ということではなく、5年、6年……と続いたそうだ。

私も治療後、社会復帰したことで、周囲からは多くの祝福を受けたが、本人としては、休職前のパフォーマンスに戻すのに時間がかかったり、重要な仕事を任せてもらおうと掛け合っても、社内の過剰な配慮により、安全運転せざるを得なかったりと、長いこと苦悩した経験がある。

よって、活動するフィールドやレベルの高さは異なれど、早川選手の抱える苦しさや辛さに共感できたし、「自分だけではなかったんだ」という想いを抱くことができた。

特に印象的だったのは以下のような下りだ。

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・確かに僕は、真っ暗闇の底からは抜け出したかもしれない。
しかし、プロサッカー選手として復帰したことで、苦難の物語が完結したわけではなかった。
むしろ苦しかったのはその後だった。
ここまでの苦しみを味わうことになるとは、復帰直後の自分は知る由もなかった。
実際に復帰後7シーズン目となる2025年の途中まで、ピッチが薄暗い世界になることがあった。
別にサッカーを嫌いになったわけではない。楽しくなくなったわけではない。でも、ピッチの上で自分が抱える影に引きずり込まれそうになっていた。

・大袈裟な表現かもしれないが、僕が陥っていた心理状態は、退役軍人や戦争帰還兵がよく陥る心的外傷後ストレス障害(PTSD)に似たような状態なのかもしれない。
PTSDは命を脅かすような出来事を経験したあとにフラッシュバックしたりして日常生活に支障をきたす精神疾患だ。
僕は軍人ではないけど、白血病という生死の淵を彷徨った末に生き延びたこと、同じ病気を患い命を落とした人を目の当たりにしたことで、少なからず僕の心には苦しい経験が色濃く残っている。
その影に飲み込まれないように自分を守ろうと、感情をリセットして「俺は大丈夫だ」「これは一時的な感情に過ぎない」と一歩引いてから自分を俯瞰して、達観してしまう。
どこか冷めた部分があり自分自身に虚無感を感じてしまうこともあった。

・復帰してから7年も経過した。
それでも僕は病気を患った過去の自分をまだ認めていなかった。むしろ認めることが負けだと思い込んでいた。
いつも押し寄せてくる影の正体に気づけた。そのとき「認めてもいいんだ。認めてからでも、できることはあるんだ」と思えるように変わった。
病気を患った自分=弱い自分。
そう思い込むことが、自分の中に影を作り出していたのだった。
あきらめるのではなく、認める。
こんな簡単なことが、僕は復帰から7年経ってもできていなかった。
急に目の前が明るくなった。

『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(徳間書店)
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治療が終わった後も、なかなか今の自分を認められないという方にぜひ読んでいただきたい一冊である。

ちなみに、昨年、その早川選手に、オンラインながらインタビューをさせていただいたので、良かったらこちらも参照していただきたい。