「プレッシャーきついやろう?つらくないか・・・?」
ある日の稽古、帰る間際の玄関先で、とある先生がかけて下さった言葉。
挨拶に行って立ち止まった娘、たちまち目からポロポロと大粒の涙。
「勝てる」と言われる、思われることの有り難さと、大変さ。
思えばずっと、期待されることの少なかった剣道人生。
一度見たことをパッと出来るようなセンスはない。
他を圧倒するような身体能力も反射神経もない。
ただ、性格の素直さと、出来ないことを出来るまで続ける我慢強さ。
昨秋の新人戦、個人第三位は正にその努力の積み重ね。
でも、次勝てる保証はどこにもない。
期待に応えたい。
その一心で走り続けている。
娘を強くしようと携わって下さっている多くの先生方の期待に。
毎日の部活と、週二回、月木の松岡の稽古、同じく水金の武道学園の稽古、
土曜日は午前中は部活、夕方から有志の先生方が始めて下さった中学生稽古会、
そのまま夜の福井市の稽古会。
空いている時間が出来れば中学の武道場を借りて技の研究。
学校行事で市内に出られない時は自主的にランニング、
寝る前も姿見の前に正座して素振り。
思わず「もういい!」と止めたことは何度も。
娘の横顔に書いてある。
ただ、期待に応えたい。
その努力も、たった一瞬、一太刀が明暗を分ける剣道競技の、
一発勝負のトーナメントを勝ち抜ける保証にはならない。
「試合は怖いね。」そう呟くのを耳にする。
「せめてリーグ戦でやらしてくれんかな(笑)。」
少しでも紛れるように、僕が続ける。
一ヶ月後、中学最後の公式戦、中体連地区予選が始まる。
先生の言葉は続きます。
「つらいな。でも、先生は今まで教え子たちに、
「大丈夫だよ!」と言って失敗させてしまったことが何度もある。
だから、今回は言わない。プレッシャーに負けないで。
他のライバルたちも同じように戦っているから。」
娘、帰りの車の中で溜まっていたものを吐き出すように嗚咽。
勝っても負けても、この挑戦には価値がある。「戦ってみたい。」
まずはそれを言うに値するこれまでの頑張り、積み重ねを誇りたい。
これ以上、何が出来ただろう?
アメリカの恩師、T先生は笑いながら娘に、
「下手くそ(笑)。本気でやり切って臨めば、涙も出ん。
ただ、終わった、それだけや。
まあ、結果を狙った時に限ってロクなことないわな。
やるべきは、目の前の相手と、ひとつ、ひとつ。
・・・まあ、俺は負けんかったけどな(笑)。」
そうだ。
いつもフラットに戻して下さる。
下手くそ(笑)。
下手くそは、頑張るしかない。
一番、得意なこと。
ただ、それだけをやろう。
(三国中との練習試合の帰り道。空も海も、どこまでも広い。)
hiratapapa