漫画キャンディ・キャンディはかつて人気を博して一世風靡しましたが、原作者と漫画家との行き違いから、漫画は絶版になりました。ところが、2010年にキャンディ・キャンディFinalStoryという名前の、絵のない小説が出版されました。それによると、30代になったと思われるキャンディが、イギリスにいて、愛するあの人と暮らしています。その暮らしぶりを交えながら、子供の頃からの往きし日々を振り返る物語です。読者には、イギリスに渡った事情も、あの人と呼ぶ、ともに暮らしている男性が誰かも明らかにされないのです。
ファンが自由な物語を創作し、密やかに発表しています。私もその楽しい世界に触れ、私が書けるファンの物語をしたためました。

 

***


今はイギリスにいるキャンディと私はずっとそばにいたのよ。


キャンディは、アードレー家の総長になったアルバートさんに認めてもらって、故郷のポニーの家の帰って、ポニー先生やレイン先生の手伝いをしながら、看護師として生きることを決めたのよね。

そのうち、アルバートさんの支援でキャンディのいるポニーの家の近くに、マーチン先生の診療所が作られることになったのよ。マーチン先生が移住されて来てくださってね。無医村だった村はマーチン先生を大歓迎よ。村や市の行政からも、マーチン先生は頼りにされてね。医師として、村の名士としてますます尊敬されるようになったのよ。キャンディも嬉しくてね。

マーチン先生の村での活躍が広がるにつれて、マーチン先生の元で働くキャンディには、出会いがたくさんあってね。隣村だったかその隣だったか、地主や資産家など村の行政に関わる名家の跡取り息子とかと知り合うことがあってね。

その地域でも結婚すれば玉の輿で、育ちも人柄も見栄えも良い若者たちから、キャンディはモテたのよ。でも、キャンディって自分が好きな人以外の好意に無頓着なところがあるじゃない。それは、キャンディだけじゃないかもしれないけれど。かつてのステアとか、アーチーとか。ニールはどうでもいいけど。テリィだって、最初はね。

村の御曹司の若者たちが、キャンディと二人きりで歩いたり、車や馬車で送られたりしているときに、不意にハグしたり、キスしたりするのをキャンディは避けちゃうんだな。やはりテリィを思い出しちゃうみたい。その人たちとは少し気まずくなったりしてね。そうはいっても相手は立派な若者たちだし、マーチン先生とも交流があるし、そのうちも何もなかったように接してくれるようになるみたい。キャンディは何も言わないけれど、ほっとしていたわ。

そもそも、テリィとは理不尽な別れだったじゃない。自殺未遂を起こしたスザナに圧倒されて、キャンディはニューヨークから逃げ出したみたいなものじゃない。テリィをかばってスザナが歩けなくなるほどの大けがに、びっくりしちゃったのよね。それに、テリィもスザナの事故をキャンディに秘密にしていて、話せなかったのだから。テリィも未熟だったわね。

神様から大きな試練を与えられたわよね。どんなことがあっても、寄り添って生きるという覚悟がお互いなかったわ。まだ10代で若かったから、しょうがないわよね。

キャンディが故郷のポニーの家に帰ったのだって、シカゴで一人暮らしするのが寂しいということだったけど、ほんとうは、テリィの喪失感が埋められなかったからなのよ。アルバートさんと一緒に暮らしていたときは、まだ紛れたけどね。そして、ポニーの家に戻って、ついにキャンディはその喪失感の深さを思い知ることになったようなのよ。だって、テリィは俳優だから、新聞や雑誌からテリィの活躍が聞こえてくるし、ロックスタウンで会った、テリィのお母さんであるエレノア・ベーカーともゆるやかな交流があってね。大好きな人たちに囲まれているのに、さみしいと思っている自分に気がついてしまうのよ。

テリィがハムレット役を射止めたときに、エレノア・ベーカーが上等な席の招待券を送ってくださったことがあってね。それなのに、キャンディは行かないことにして、招待券をそのまま仕舞い込んでしまったのよ。記念の宝物にするんだって。

そのとき、キャンディに言ったのよ。招待券を送り返して、その席に誰かに座ってもらった方が、お芝居を観る観客が増えていいんじゃないの?って。でも、キャンディは「その券を送り返したくなかったの。実際にその席に座っていなくても、座ってお芝居を観ているつもりになりたいから」って。

びっくりして二の句がすぐに出なかったわ。ようやく「そうなのね」とキャンディをハグしたの。キャンディは本当にテリィが大好きなのね。キャンディはいつも元気で明るくて可愛くて素敵な女の子なのだけど、もう少女じゃなくて大人の女性のようだと思ったわ。