葉和(はなご)の道しるべ〜ひとり、ゆるりと〜

夜7時。窓の外はもうすっかり暗くて、
虫の声だけが聞こえています。
いよいよ「夜長」の季節が始まりました。
ひとり暮らしの長い夜を、
昔の私は少し持て余していました。
テレビをつけっぱなしにして、
なんとなくスマホを眺めて、
気づいたら寝る時間。
夜が長くなるのは、
手持ち無沙汰の時間が
増えることだと思っていたんです。
でも、今は違います。
秋の夜長は、一年でいちばん上等な
「自分の時間」。
せっかくなので、私なりの
「夜長のはじめかた」を三つ、
ご紹介しますね。
ひとつめは、灯りをひとつ消すこと。
部屋を少し暗くするだけで、
時間の流れがゆっくりになります。
心も、明るさに合わせて
静かになるから不思議です。
ふたつめは、温かい飲みものを、
丁寧に淹れること。
ほうじ茶でも、紅茶でもいいんです。
「淹れる」という数分の手間そのものが、
夜のいい区切りになってくれます。
みっつめは、「ながら」をやめて、
ひとつだけすること。
本を読むなら、読むだけ。
音楽を聴くなら、聴くだけ。
ひとつのことだけをする時間は、
贅沢の基本形だと思います。
どれも、お金のかからないことばかり。
でもこの小さな夜の習慣が、
日中の私を、けっこう支えてくれています。
夜にちゃんと根っこへ水をやった翌日は、
立ち方が違うんです。
夜長は、これから冬至まで、
毎日少しずつ伸びていきます。
今夜、まずは灯りをひとつ消すところから、
始めてみませんか?

9月の風に、そろそろ夏を見送る
気配がしてきました。
そこで今夜は、夏の締めくくりに、
こんな振り返りはいかがでしょう。
この夏いちばんの
「おいしかった」は、
何でしたか?
私はしばらく考えて、
スイカ、に決めました。
朝の台所で、よく冷えた
一切れを口に入れた瞬間の、
「夏も悪くないねえ」という
あの気持ちまで含めて、
今年の金メダルにしました。
旅行の写真のような、
大きな思い出ではありません。
でも、季節の記憶って、
案外こういう小さな
「おいしかった」に
宿るものだと思うんです。
舌が覚えた夏は、
忘れないんですよね。
暑さに文句を言いながらも、
私たちはちゃんと、
この夏を味わっていました。
それを確認してから秋に入ると、
季節の変わり目が、
ちょっと丁寧になる気がします。
あなたの金メダルは、何ですか?
桃、とうもろこし、冷やし中華、かき氷。
よかったらコメントで、
あなたの「この夏いちばん」を
聞かせてください。
みんなの「おいしかった」を並べて、
今年の夏においしく蓋をしましょう。

鉢植えの育て方にも
植物の種類によって
いろいろあると聞きました。
日当たりのいい特等席に置いていたのに、
葉の色が今ひとつ冴えない。
ためしに半日陰の廊下に移してみたら、
ひと月で見違えるほど、
つやつやになる。
日なたが、すべての植物の
ごちそうというわけではないんですね。
東洋の学問には、
これと同じ考え方があります。
人にもそれぞれ、
生まれつき「合う気候」が
あるという考え方です。
にぎやかな場所で充電できる人と、
静けさで充電できる人。
朝に力の出る人と、
夜に頭の冴える人。
大勢の輪の真ん中が心地よい人と、
輪のふちが心地よい人。
昔の私は、
これを知りませんでした。
だから、にぎやかな飲み会で消耗しては
「付き合いの悪い私が悪い」、
朝型の職場でぼんやりしては
「怠け者の私が悪い」と、
いつも自分を責めていました。
日なたで元気が出ないのは、
自分が欠陥品だからだと思っていたんです。
でも、違ったんですね。
悪かったのは私ではなく、
置き場所との相性でした。
植物と人間の大きな違いは、
人間は自分で置き場所を変えられる、
ということです。
大がかりな引っ越しでなくていいんです。
静かな喫茶店で過ごす時間を週に一度つくる。
疲れる集まりは、回数を半分にする。
朝が苦手なら、大事な用事を午後に寄せる。
小さく試して、葉の色つやを観察する。
それだけで、ずいぶん変わります。
自分に合う気候の中にいる人は、
無理に頑張らなくても、自然に育ちます。
あの鉢植えが、そうだったように。
あなたが一番、
葉をつやつやさせていられる
「気候」は、どんな場所ですか?
思い当たる景色が、
ひとつはあるはずですよ。

