信 14巻9号 

        2024年9月3日発行 

      by 花 墨 汎 潤

-「現代のもののあわれ    

  ー詩篇エチュード」 その(4-1)

 

A14 出征(しゅつせい)してシベリア抑留(よくりゅう)>という過酷な体験をし、帰国してから詩に書いた作品を紹介しましょう。<怨みつらみ>が詩人の感覚ではこうも純粋にするどく結晶するもんだなあ、と感心させられますよ。30代に数年間極北の地で捕虜(ほりょ)として森林伐採に働いたんですね。

Q14 へえ、ぜひ聞かせてください。どんな詩でしょう?

A15 これほどつらい体験を重ね、それを心の奥底に沈めて描いてみせた詩人は他にいません。すべて連綿(れんめん)と呟(つぶや)きが続く長い詩が多いので、残念ながら紙面の都合で作品一つしか紹介できません。けれどもこの詩から≪大いなる謎解きのヒント》がつかめたんですよ。その詩を紹介しましょう。

 

     ロシヤの頬             

            ※ 紙幅の関係で下行を右へ移します。

 

  そのかぎ裂けの頬を   ロシヤのように

  おれは愛した   いわば直角に

  折れまがることで   ロシヤは正しい

  信じたのだ   ロシヤは正しい

  ロシヤの痛みは その   角度において楽しい

  その痛みにおいて   ロシヤの角度をたもつもの

  しかしさようなら   おれは痛みを

  外へ去る   ロシヤの

  痛みが直角であるように   おれの痛みも 

  また直角なのだ        

 

A15 実は8歳年上の兄も軍需工場から18歳で出征し、まもなく<シベリアに抑留>されました。昭和20年終戦になったにもかかわらず、その4ヶ月後にシベリアに送られたんですね。森林伐採は大変な重労働だったのに、兄は腕を見込まれもっぱらログハウス建築にまわされました。優遇されてウオッカを特別にふるまわれる日々だったようですね。            

 

                    (4-2へ続く)