花 の 墨 通 信 14巻9号
2024年8月31日発行
by 花 墨 汎 潤
A9 時代の流れに棹(さお)指して<活字本の普及を>と呼びかけても、<電子文化の大波>には勝てません。そこでささやかなる抵抗を試みることにしたのです。スマホでもかんたんに読める<ソネット>という14行短詩の連載ですね。これは今まですべて《抒情詩のかたち》ですが、これを《現代のもののあわれを語るエチュード》という<叙事詩(事件詩>に変えようというわけなんです。
Q9 電子版ですから、有料になりますよね。いくらですか?
A10 では、谷川俊太郎の<ソネット>を紹介後に言いましょう。この詩は単なる案内ですよ。
ソネット
※ 紙幅の関係で下行を右へ移します。
空の青さを眺めていると 私は帰るところがあるような気がする
だが雲を通ってきた明るさは もはや空へは帰ってゆかない
陽は絶えず豪華に捨てている 夜になっても私達は拾うのに忙しい
ひとはすべていやしい生まれなので 樹のように豊かに休むことがない
窓があふれたものを切りとっている 私は宇宙以外の部屋を欲しない
そのため私は人と不和になる
在ることは空間や時間を傷つけることだ そして痛みがむしろ私を責める
どうですか。この詩の良さがわかりますか?
Q10 漠然とはわかります。<宇宙感覚>ですね。素晴らしい詩ですよ。前半は陽射しがまぶしいので幸福な感じです。それがなんで他人と不和になるんでしょう。<適応障害>なんですか?
A11 鋭いですね。実際それに近い苦境にあったらしいのです。宇宙に漂(ただよ)っていれば幸せ感覚がいっぱいなんです。それが他人とうまくいかず心が少し病(や)んでいるのです。父親は有名な哲学者の東大教授です。その父は都立の定時制高校に通う息子になにも言いませんでした。偏差値がすべての価値判断のもとになる時代に、<おまえはいったい何を考えているのか?>と詰問(きつもん)せず、ひたすら息子を見守ってくれています。が、息子はとんでもない才能の芽を出していたんですね。<私が去ると私の健康が戻ってくる>という言い方は、怖(こわ)い感じもします。自殺しかねない意味もあります。けれども同時に<クリェティブ(創造的)な天才のひらめき>も感じさせますね。(3―1へ続く)