2024年8月16日発行

「花の墨通信」14巻8号・号外  

        (回答)花墨 汎潤

ー 相談室「パンセ・ソバージュ」

    第91回     

全体知をどう回復するか」 

          その(2-2)

 

A11 小林製薬が販売した<紅麹(べにこうじ)>で5人が死亡し、入院患者が212人も出ています。これは不可解な事件でもなんでもなく、原因は<ブベルル菌>という高有毒性の青カビ菌混入だとほぼわかっています。当該製品の原料提供元は173社中53社が小林製薬ですが、発生原因がもっとも疑われるのは大阪か和歌山工場の製造過程です。米と麹菌を入れてまず最初に混ぜ合わせ・加熱・培養をするけれども、装置の下部に30℃程度の温水があり、長く使っているとここにカビが生える可能性があります。何らかの腐食(ふしょく)でヒビが入り、カビ菌が混入したことが考えられます。

Q12 すると<紅麹自体に有毒性がひそむように<風評される>のは八つ当たりですよね。そうじゃありませんか? 

A12 専門家もそう残念がっています。紅麹自体は健康に良いのです。コレステロール低減効果は確かにあるんですね。問題は三つあるようです。一つは<紅麹の培養が難しい>こと。デリケートな菌で、取り扱い要注意なんですね。二つめは培養には混入・加熱が必要ですから、装置を完全密閉(みっぺい)するのが難しく、外部からのカビ菌混入を招きやすい点です。三つめはこのような技術論的な問題ではなく、<アベノミクスの安易な成長政策>が影を落としています。つまりトクホ>と<機能性表示食品の違いからくる問題点なんですね。これはすでに海外でも話題になっている事例があります。

Q13 まずその<カビ菌>の話から知りたいですね。

A13 では、「週刊新潮」2024年4月11日号の巻頭言で、博学の人片山杜秀(もりひで)の<豊葦原はカビの国>と題した一文があるので、これをまず抜すいして紹介しましょう。

「陸軍では日清戦争で約4万人、日露戦争で約25万人が脚気に、共に約1割が死亡した。なぜそんな病気が? 西洋ではポピュラーでない。お雇い外国人のベルッ博士は日本特有の伝染病ではないかと意見具申した。が、異論も出た。陸軍の兵食の基本は白米。そのせいではないか。要するに贅沢病だ。玄米を食べていれば脚気にはなるまい。日露戦後、陸軍軍医総監になった森林太郎(鴎外)は贅沢病説には不同意だったが、それから大正期にかけて化学者の鈴木梅太郎や医学者の島薗順次郎がその説を証明した。玄米の米糠(ぬか)部分に含まれるビタミンB1が脚気に効くと分かった。ビタミンB1不足が脚気の原因。定説化して今日に及ぶ。

 だが、一寸おかしくないか。日本人が白米を広く食べるようになったのは、明治以後と言われる。‥(中略)・・本当にそればかりが理由なのか。」

「脚気の原因は確かに米食。だが、白米か玄米かではない。問題は米にカビが生えたか否かだ。」

「米に付くカビに、腎臓や肝臓に作用する毒を作るものがあると分かった。腎臓も肝臓も機能不全に陥れば身体が浮腫む。まるで脚気。」                     (明17日へ続く)