2024年6月15日発行

 「花の墨通信」14巻6号・号外 

          (回答)花 墨 汎 潤

ー 相談室「パンセ・ソバージュ」

    第89回     

近代科学は無宗教 

           その(1-1)

 

Q 大学院で仏教学を専攻している若き学究から<悩める手紙>が来ました。「前回の本ブログで《全体性の回復》という言葉を聞きまして大変同感いたしました。自分が修行し探求している仏教哲学はまさにその思索に添っています。しかし<高度近代科学文明の進む方向はその逆行ではないか>と疑問を抱いております。生成AIが登場して諸般の問題に答える先にはおそらく<高度な知能を持つロボットが神仏の代わりをする>だろうというご意見には賛成するほかありません。こうなると早晩<世界三大宗教は滅(ほろ)びる>しかないのは明らかでしょう。<超高度メカニズム文明時代>を迎えて<サイエンス(科学)と宗教の融合>はあり得ないのでしょうか? はたして<核融合文明>はその融合の橋渡しをしてくれるのでしょうか?」というとても難しい質問です。即答はできないにしても、ぜひ良き相談に乗ってあげてください。いかがでしょう?

A1 これはまさに自分が生涯をかけて探求している最重要テーマなんですね。ゆえにまず<科学と宗教の関係>から問題点を捉えてみましょう。西洋中世史をみると国王も神の前にひざまずく時代ですから、ローマン・カトリック(キリスト教のローマ教会)が圧倒的な権威を持ち西欧世界に君臨(くんりん)していました。宗教改革・市民革命・産業革命の三大改革を経て3世紀も経たないうちにその根底が変わろうとしています。すなわち<超高度メカニズム文明時代>がすぐそばに近づいています。2023年量子コンピュータと生成AIが登場し、この二つが融合すると機械文明=物質文明がわれわれの心理をコントロールし、人類が営々と築いてきた<精神文明を崩壊(ほうかい)させる>危機を迎えています。眼前で周囲など気にせずまるっきり<スマホにとりこ>になっている若者を眼前にすれば、それが<来るべき量子的生成AI時代の予兆(よちょう)>であることが明らかでしょう。

 もちろん楽観的な見方もあります。若者が新聞も本も見なくなりスマホにかじりついているのは、<野放し教育>のせいであり、欧米のように<楽に入学させる代わりに、いったん入学したら徹底して読書を課題にして読ませて考えさせる探求学習に切り替える>ならば、この欠点は軽減できるはずだというわけですね。一案ではあるけれども根本的な打開策とは言えないでしょう。これをどう思いますか?

Q2 あまりにも<電波文化の進歩は早く、活字文化の進展は遅々>としてなかなか目に見えません。どうにもなりませんよ。打開策はないでしょう。いかがですか?

A2 確かに今まで<科学と宗教は対立>し、<宗教側は科学に食われる>ばかりで、宗教の居場所はどんどん無くなっています。今世紀それがはっきりしたわけですね。けれどもこれは<物心分離>の立場にたつ欧米流の見方に過ぎません。この見方を変える必要があります。すなわち<自然法則を捉える既知(きち)の科学と自然法則が未解明で未知の宗教>というふうに同じ次元でみる分け方をすることですね。この意味がわかりますか?

Q3 西洋流に<物心分離・身心分離を徹底せず、同じ次元でみるわけですか? (1-2へ続く)