今月ル・テアトル銀座で上演されている 女殺油地獄 上方歌舞伎でも難しい狂言。
何より上方の雰囲気がしないと話になりません。演技の巧拙ではなく、身体から漂う上方の匂い。台詞は大阪言葉になっていても所作が江戸風では、独特の世界が浮き彫りにならないのです。
残念ながら、秀太郎さん以外はみな江戸の雰囲気。新地のぼんじゃりした雰囲気は薄く、まるで吉原の喧騒のよう。これはちょっとねぇ。
お吉は子持ちで商家の妻、27歳の彼女がいくらお詣りでもあんな明るい桜色の着物、有り得ないし。全く誰が選んだのやら…。
与兵衛に至っては、お吉を斬りつけて、だんだんと狂気に支配されていくプロセスはなく、本気で殺しちゃう奴に見える。目がね、正気なの。だから与兵衛の抱える心の闇が覗けないし、ただの悪党にしか見えない。そんなに底は浅くないぞ、油地獄。
今回は捕縛されるところまで通してますが、この部分はかえって芝居の印象を落としている気がします。人形なら受け流せる部分が生身の人間では活かせない。そんな幕です。この狂言、まずは関西の役者さんで脇を固めて上方の匂いを感じさせるところから造り直してみせて欲しいですね。
いや、疲れました。