子どもたちは夢中になって小鳥を捕まえ、どんどんと山奥へ入っていきます。
「ああ。おら、もう腹が減って死にそうだ」
一人の子どもが言うと、ほかのみんなも言いました。
「そろそろ、にぎりめしを食おう」
「うん、そうしよう」
子どもたちは大きな松の木の下に一枚岩を見つけると、そこに腰をおろしました。
そして一人の子どもが、にぎりめしを入れた袋を開けて叫びました。
「あれー! にぎりめしがない」
「お前、どこかで落としたんじゃろう」
別の子どもが言いながら自分の袋を開けると、この子の袋も空っぽです。
「あれっ? おらもない」
「おらもないぞ」
不思議な事に、誰の袋にもにぎりめしが入っていないのです。
「おかしいな? 確かに入れてきたのに」
「袋の口は、ちゃんとしばってあるのに」
お腹を空かせた子どもたちがしょんぼりしていると、頭の上からカミナリの様な大声がどなりました。
「やい、やい。お前たちー! 子どものくせに、こんなところまで来るもんでねえ」
子どもたちが見上げると、すぐ後ろの松の枝から体の大きな山伏(やまぶし)が、こっちをにらんでいます。
「ここは、おれたち山伏の大事な場所じゃ。荒らす事はならん。さっさと山をおりろ」
「おりろって。おらたち腹が減って、もう歩けんわい」
「なにっ? 腹が減って歩けんとな。・・・仕方ない。それならこれでも食え」
山伏は木からおりると、両手を差し出しました。
するとその手には、山の様なにぎりめしが乗っています。
「わー、うまそうなにぎりめし・・・。あれ?」
よく見るとそのにぎりめしは、子どもたちがなくしたにぎりめしだったのです。
「なんで、おらたちのにぎりめしが・・・」
子どもたちは気味が悪くなって、ブルブルと震え出しました。
そしてだれかが大声で泣きながら駆け出すと、残りのみんなも同じように逃げ出しました。
すると山伏が、逃げる子どもたちに言いました。
「おーい。これを持って行け!」
でも子どもたちは止まることなく、そのまま走って山のふもとまで帰ってきました。
山をおりて一安心した子どもたちの一人が、驚いた声をあげました。
「あれっ? 重いと思ったら、にぎりめしがあるじゃないか」
「ああっ、おらもだ」
「おらもあるぞ」
子どもたちの腰の袋には、無くなったはずのにぎりめしがちゃんと入っていたということです。
おしまい