あれから十年...
みなさんはどのように過ごされてきたでしょうか。
 
あの日から三年後の2014年3月11日
NHKスペシャルで【あの日 生まれた命】という震災特集番組が放送されました。
 
私はこの番組のことをとてもよく覚えています。
 
多くの命が失われたあの日...
被災地では100を超える新しい命が誕生していたのだそうです。
 
 
 
 
 
 
津波で水没しかけた病院で、不安に押しつぶされそうになりながら産んだ我が子。
 
 
混乱の中で「産まれた子は幸せなのか」と自らに問い、答えを出すこともできない母親。
 
 
大切な人を亡くした深い悲しみの中
自分だけが子どもを授かった喜びを感じることに、罪悪感すら感じてしまう若い母親。
 
 
それでも「我が子の笑顔を守りたい」という思い
それぞれがさまざまな困難を乗りこえ強くなっていく様子。
 
 
被災地の人たちに温かく見守られながら
子どもたちが三歳のお誕生日を迎えた3月11日は
ひ孫の誕生を心待ちにしてくれていたおばあちゃんや、父、母、兄弟たちの命日でもある日。
 
家族が優先するのは祝うことではなく祈ること。
 
前の日、前の前の日に吹き消すケーキのロウソク。
 
 
 
そんな内容の番組でした。
3月11日が来るたび、あの子たちのことを思います。
 
 
被災地…この言葉が適切なのかどうか
本当はどう言えば良いのか私には分かりません。
 
あの日、何度も何度も繰り返し流れていた津波にのみ込まれる街の映像。
 
十年という歳月…
あっという間にも感じられるその日々
 
悲しみや苦しみや切なさを乗り越えるため
どれほどの涙が流されたのかに想いを寄せるとき
あの日以降も生きている者として
伝えるべき多くのことがあります。
 
 
けれど、このことも心に留めていたい
 
3月11日が誕生日の人もいる。
1月17日が人生でとても大切な日という人もいる。
 
祈り、願う日であると同時に
祝う日でもあるその日。
 
永遠に癒されることのない大きな悲しみの中、お母さんが命をかけて頑張った日。
 
生まれてきたその命が懸命に産声を上げた日。
 
 
素晴らしい瞬間が訪れた日であることを祝福する気持ちも忘れないで、大切にしていきたいと思うのです。
 
 
 
 
 
 
詩人・栗原貞子さんの代表作に
原爆の時のことを書いた
「生ましめんかな」という詩があります。
 
広島原爆投下混乱の中、新しい命を取り上げ
その後、自らの命を落とした産婆さんを詠んだ創作詩歌です。
(モデルとなった産婆さんは実際にはその後も生きておられます)。
 
 
栗原さんは生前
「産婆さんはえらい」という詩への感想をもらった時あの詩を書いた本当の心を語っていました。
 
 
真っ暗でみな傷ついている、それでも何とか無事に赤ちゃんを産ませたいと考えた産婆さんがいたこと。
 
しかし、ひとりの人の立派な行為をほめるだけのものではないこと。
 
自分の命がぎりぎりのときにそれでも何とかしたい、助けてあげたいと思うのが人間なのだと伝えたかったこと。
 
自らの命を落としても赤ちゃんを産ませた産婆さんをほめたのではなく、人間全体をほめた詩であり、「生ましめんかな」には、平和を産みましょうという気持ちをこめた、と。
 
 
 
8月15日の訪れを知らずに
わずか 9日前に失われた20万という想像を絶する数の尊い命。
 
けれどそれでもなお、どんなことがあっても
どこかで命が生まれてくれていることが
人間の希望なんだと
「生ましめんかな」は教えてくれています。
 
 
 
2021年3月11日
 
あの日に生まれた赤ちゃんたちも
満10歳のお誕生日です。
 
毎年の誕生日にはいろんなことや想いがあっただろうし、これからも変わらずその想いを胸に抱いて生きていくのでしょう。
 
3月11日がお誕生日だったからこそ
心豊かに育ってくれてるんじゃないかなって
そんなふうに、私は想像するんです。
 
これから更に十年後の成人式には
晴れやかな笑顔がたくさん見られますね、きっと!
 
 
 
 
 
失われた尊い命に祈りを捧げると同時に
 
3月11日がお誕生日のたくさんの命にも
 
「おめでとう!」って
 
大きな声で言ってあげたいです、心から。