ユノが告発したんじゃないの…?では一体だれが…?

 

「貴女、やり過ぎましたね。ユノ兄を本気で怒らせてしまった。もうおしまいです」

「どういう事よ!ちゃんと説明を…」

「貴女が襲おうとしたキムジェジュンは、ユノ兄の番です。この国唯一のスーパーαの運命の番」

「でも国はそれを認めるわけないわ!あの子はオメガとオメガの子供!最底辺の人間よ!しかも不妊だって話だし…」

「状況が変わったんです。今、キムジェジュンは国が保護を決めた、特別VIPです。そんな彼を、あなたは襲おうとした…。貴方を逮捕したのは、青瓦台です」

 

「え?青瓦台が…?」

 

「国家プロジェクトを邪魔しようとしたあなたを国は許さないでしょう。そしてチョン家もあなたを助ける気はない。ムン家との取引も全て中止します。そうなればムン家の将来はもうない。つまり貴方を助ける人は誰もいない、という事です」

 

コツコツと机をたたくチャンミンは、スミンに囁いた。

 

「あなたが実はベータで、アルファと偽っていることは、会長をはじめ、ユノ兄もユチョンもみんな知っていましたよ。それでも黙っていてくれたチョン家に感謝し、大人しくしていれば良いものを」

 

ガッ!

スミンはチャンミンの腕を取り、ギリギリと睨みつけた。

チャンミンはその手を無慈悲に払いのけた。

 

「ふふ…私はこんな日が来るのを、ずーっとずーっと待っていたのです。シム家をバカにしたあなたが、一文無しになって惨めに私を睨みつける日を。そう、その目です。あ~~気分が良い!最高です!」

 

「お…お願い!シム秘書。助けて!助けてください!何でもします!だから…」

 

チャンミンは楽しくて仕方がないという風に微笑んだ。

 

「あぁ、何もしなくて結構です。それよりスッテンテンのあなたに一番の言葉をあげますよ」

 

チャンミンはスミンの耳元で囁いた。ニヤリと笑いながら。無慈悲に。

 

「ゴメンで済めば警察はいらねぇ」

 

がっくりとうなだれたスミンを尻目に、チャンミンはご機嫌で帰って行った。

誰もいなくなった取調室で、スミンはやっと思い出した。

以前ジェジュンを工場跡に捨て置いた時、怒ったユノがやってきて言った言葉を。

 

『またジェジュンが傷つくことがあれば…アンタのすべてをこの机のようにしてやるからな!』

 

そう言って強化ガラスの机を粉々にしたユノ。

チョン家会長の妻、CYグループの副理事、韓国唯一のスーパーαの母。

誰もが羨むセレブな生活、有り余る財産に、人々の羨望の眼差し。

ただのベータだった自分が、嘘に嘘を塗り重ね、ここまでやってきた。

いつの間にか、ウソが本当になったと思い込んでいた。

それが今…木っ端みじんに砕け散った…。

本当にユノの言う通りになってしまった…。

 

スミンが所有していた不動産、車、現金、株、権利、肩書、貴金属に至るまですべてチョン家が没収した。

チョン家が取引を中止したことにより、ムン家は窮地に陥り、ほどなくムン家は没落した。

今までやりたい放題だったムン家を擁護する投資家は一人もなく、後にムン家は一家離散に追い込まれた。

数々の余罪が発覚したスミンは、10年は刑務所暮らしになる事だろう。

 

ユノは私がベータだといつから知っていたのか…?

本当の母ではない事も知っていたのだろう。

だが一体いつから…?いつから私が本当の母ではない事を知っていたのだろう…。

 

 

 

幼い頃の俺(ユノ)は、全ての事に退屈していた。

幼稚園のお遊戯など拷問でしかなかったし、学校へ行くようになっても誰とも話が合わず、つまらない毎日だった。

弟たちは可愛いが、まだ小さいから、俺の知的好奇心を満たしてくれるものは、父の書斎にあった。

こっそり書斎に入り、父の机にある仕事の書類や、専門書を読むのが一番楽しかった。

 

ある日、俺は父の仕事のやり方に疑問を持つようになった。

なぜこんな回りくどいやり方をするのか、もっと簡単な方法があるだろ、それとも何か理由があっての事か?何故投資を引き上げる?この分野は必ず当たる、もう少し我慢すれば必ず儲かるのに。

 

ふと頭によぎる考えを、慌てて打ち消す。

何度も打ち消し、それでも蘇る思い。

あぁ…父は優秀ではない、いや、俺が特別飛びぬけているんだ…。

 

その瞬間、自分にとって父とは「尊敬する対象」ではなくなってしまった。

 

一方ユチョンは、俺のようなひねくれ者ではなく、子供らしい子供だった。

いつもニコニコして、素直で表情がクルクル変わる。

怒ると顔を真っ赤にして怒り、悔しいと涙をぽろぽろ零し、笑う時はひまわりのように笑った。

 

「ひょーん。まってよぉ~」

 

いつも後ろをくっついてくるユチョンが可愛くて、わざと早足で先に行き、一生懸命追いかけてくるユチョンを抱きしめてやるのが好きだった。

 

「お父さんはすごく仕事が出来てカッコいい。僕もお父さんみたいな大人になりたい」

 

ニコニコ笑いながらユチョンはいつもそう言っていた。

俺のように父を心のどこかで自分より下とみている自分ではなく、心から父を尊敬するユチョンは可愛かったし、羨ましくさえ思えた。

 

「あぁ、ユチョンならなれるよ。ヒョンも応援するからな」

「ゆのヒョーン。大好き」

 

父を心から尊敬するユチョンを、父も可愛がっており、事あるごとにユチョンを抱き上げ可愛がっていた。

父も分かっているのだろう、俺が父より優秀であることに。

ユチョンのように甘えることが出来ない俺は、嬉しそうに抱っこされるユチョンを、少し離れた所から見る事しか出来なかった。

 

そしてその時、自分の孤独に気が付いた。

 

…誰も俺にはついてこられない…、俺は誰とも何も共有することが出来ないんだ…。

ユチョンやチャンミンを可愛いと思い守ろうと思うが、自分の想いを誰かと共有する事はないだろう。

誰も俺の心を理解することなどできないのだから。

 

 

俺の家にはベビーシッター兼家庭教師のイトゥク先生がいた。

イトゥク先生は、俺やユチョン、そしてしょっちゅう家に来ていたチャンミンの母親代わりであり、とても優しく美しい人だった。

イトゥク先生は、俺がこっそり父の書斎に入っていることを知っていたが、叱らなかった。

先生は俺の孤独を、秘かに感じ取ってくれた。

そしてユチョンのようにうまく甘えられない俺をよく理解し、代わりにこっそり抱きしめてくれた。

 

「ユノはユノのままでいいんだよ」

 

子供時代にイトゥク先生が傍にいて、自分を肯定してくれた事が、その後の自分を作ってくれたと言っても過言ではない。

滅多に家に来ず、来ても家政婦たちに威張り散らすだけしか能がない、スミンという母親にはうんざりだ。

スミンが実はベータであり、アルファだと嘘をついている事は、スーパーαの自分にはすぐに分かった。

それなのに威張り散らし、「スーパーαの母親」として鼻高々に暮らしている。

俺は、心から「イトゥク先生が自分の母親だったらいいのに」と思っていた。

 

そんなある日、俺は見てはいけない資料を見つけてしまった。

それは、自分達兄弟はイトゥク先生の子供であり、ユチョンは父の子供ではないというもの。

どういうことだ…?だがイトゥク先生が浮気をするような人間には思えない。

そこには必ず、何らかの理由があるはずだ。

 

イトゥク先生が母親だったらいいのに、と思った事は何度もあったので、それは素直に嬉しかった。

だが、ユチョンが父の子ではないという事実は、絶対に隠さなければと思った。

あんなに父に憧れているユチョンに、この事実は知られるわけにはいかない。

ユチョンの為にも自分の為にも、ユチョンにはチョン家の人間として生きて欲しい。

俺の後ろを追いかけて走るユチョンの姿が、頭に浮かんだ。

 

俺の可愛い弟を…絶対に泣かさないし守ってみせる…!

 

その日から、父がユチョンの事を可愛がっていた事で羨ましいと思っていた感情が変わった。

父にはもっとユチョンを可愛がって欲しいし、俺も可愛がりたいと思った。

あの笑顔を守りたかった。

 

ある日、いつものように癇癪を起し、部屋から出るムンスミンを見かけた。

ふとその部屋を覗くと、イトゥク先生が、うなだれて座っていた。

 

「先生!」

 

思わず駆け寄ると、先生が慌てて涙を拭いて隠すのを見つけた。

自分の本当の母親であるイトゥク先生を泣かせたスミンに、殺意が沸いた。

 

「ユノ!」

 

先生は俺の感情を悟ったのか、俺の肩を掴みそのまま抱きしめた。

 

「大丈夫…先生は大丈夫だから」

「でもっ!」

「あの人はユノの母親。だから逆らってはダメ」

「先生…俺は知ってるよ。本当は先生が俺とユチョンの…」

 

イトゥク先生は慌てて俺の唇に、人差し指を当てた。

 

「ユノや…。それを言ってはダメ。ユチョンの為にも、黙っていて」

 

先生の言葉で全てを理解した。

ムンスミンが母親でない事が明るみになれば、ユチョンが父の子ではない事もバレてしまうかもしれない。

 

「先生…先生はそれでいいの?」

「構わない。僕は…ユノとユチョンの傍にいられればそれでいいの。お前たちが大切なの」

「分かった…。俺が大人になったら…先生を守ってあげるから。絶対泣かさないから」

「ありがとユノ。その気持ちだけで僕は十分だよ」

 

イトゥクは微笑んで、ユノをギュッと抱きしめた。

優しいイトゥク先生はそういうだろうと思った。

全ては、俺やユチョンの為、自分の事より、いつだって俺たちや父の為に生きる人だ。

絶対にいつか全部ひっくり返して、イトゥク先生を母親として迎え入れようと、ユノは誓った。

力をつけ、ユチョンを完全に守れるようになったら、全部正しい形に戻すんだ…!

 

 

 

 

どういうことだ…?

 

 

 

※※※

優秀過ぎるがゆえに、ずっとずっと孤独だったユノ。

ユノは随分前から自分の出自を知っていましたが、ユチョンの為に隠していました。

スミン逮捕により、やっとオンマを取り戻せます。

しかしそう簡単にはいかないようで…?

 

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