ベッドの中、とろんと微睡んだジェジュン。
熱く抱き合った後の、ジェジュンの蕩けた表情がユノは好きだった。
ユノは救急箱を持って来て、赤く腫れた歯型を消毒した。
眠ってしまったジェジュンに布団をかけると、ユノはそっと部屋を出てユチョンに電話をした。
「ユチョン、分かったか?」
ジェジュンとジュンスがいたホテルにやってきたのは、スミンが雇っているチンピラだった。
料理にオメガのヒート促進剤を混ぜ、ヒートを起こさせて襲い、動画でも撮って、今後のゆするネタにするつもりだったのだろう。
あの時と同じ、母親であるイトゥクと同じ目に合わせる気だった。
……母親を傷つけ、何よりも大切なジェジュンを同じ目に遭わせようとしたスミン。
この復讐は、息子の俺がするべきだろう。
ユノの背中から、髪が逆立つぐらい、怒りの炎が燃え上がっていた。
「どうするの?ユノ兄」
「決まってる。もう許さん。すぐに実行してくれ。会長には俺が連絡しておく」
「分かった」
ユノは時計を見て時差を計算し、シンガポールにいる父に電話をかけた。
「…ユノか。かかってくると思っていた。どうした」
「俺は…父さんと同じ、運命の番を持つことが出来ました。これから準備して、公に公表するつもりです。俺は、ジェジュンと生きていきます」
「そうか。おめでとう。一度シンガポールに会いに来い。イトゥクもお前に会いたがってる」
「はい。ジェジュンを連れて会いに行きます。俺も会いたいと…先生に伝えてください」
「あぁ…楽しみにしている。お前は、俺が出来なかった事をやり遂げるんだな…。いいか、ユノ。公表するなら、死んでも守るんだぞ。まぁ公表する勇気がなかった俺が言う事じゃないが…」
「違うよ父さん…。あの頃と今とでは時代が違う。あの頃は無理に公表しない方が安全だった。だから父さんの選択は正しかったと思う。今は世の中も変わった。俺もジェジュンを守りたいから公表するんだ」
「ユノ…お前には申し訳ないと思っている。足りない父親だった。父らしいことをしてやれなかった。すまなかったな。お前がユチョンを守ってくれて感謝しているよ」
「イトゥク先生は、先生としてだけどずっと傍にいて俺たちを育ててくれた。先生は俺達兄弟とチャンミンを兄弟にしてくれたんだ。3人でいられたから、俺たちは頑張って来られた。それが出来たのは父さんのおかげだよ」
「……ユノ、ありがとう」
電話口から、ウンソクの鼻を啜る音が聞こえた。
「あ、それから。父さんにお願いがある。これはチョン家当主としてのお願いです」
バタバタという足音と共に、秘書が副理事長室に駆け込んで切羽詰まった声で言った。
「副理事長!大変ですっ!」
「何よ、朝っぱらから…」
スミンは不機嫌な顔を隠さず言った。
青ざめた秘書の後ろから、ゾロゾロと数人の刑事が入って来た。
刑事は逮捕状を見せつけ、淡々とした口調で言った。
「ムンスミンさんですね?あなたを、強制性交等罪を教唆した罪で逮捕します」
「はぁぁ?何を言っているのよ!私が誰だか知って言ってるの?!」
「勿論存じ上げておりますよ、ムンスミンさん。あなたには陳述を拒否し黙秘権を貫く権利が…」
ミランダ警告を受ける間も、わめき、暴れるスミンだったが、刑事は淡々と手錠をかけた。
そしてスミンの耳元で囁いた。
「スミンさん…あんなチンピラを雇っちゃいけない。アイツらはいくらでも金で転ぶ。わめく間に弁護士を呼んだ方がいいでしょう。因みに外には記者たちがいますので、あまり醜態をさらさない方がいいですよ…」
ギョッとしたスミンが耳を澄ませると、ビルの下でザワザワと騒がしい声が聞こえ、バタバタとヘリコプターの音まで聞こえた。
スミンは慌てて秘書に視線を送ると、秘書は深く頷いて部屋から出て行った。
落ち着くのよ…!一体どういう事?
この前のジェジュン達を襲う計画がバレたの?
でもあれは未遂に終わったし、チンピラたちにも金を掴ませて口止めしたはず。
そもそも私の名前は一切出てないはずだから、弁護士を呼べば問題ないわよ。
ふん…どうせユノが脅しの為にやった事でしょ?
マスコミがいるなら、毅然とした態度で外に出なければ!
やっと大人しくなったスミンは髪を整えると、胸を張って刑事と共に外に出た。
待っていたマスコミが、スミンたちを取り囲みマイクを向けた。
「ムンスミンさん!あなたがチンピラを雇ってオメガを襲わせようとしたのは本当ですか?」
「全くの事実無根です!何故そんな事に私の名前が出たのか不思議で仕方ありません。警察に行き説明を聞きたいと思います」
パトカーに乗り込み頭を巡らせていたスミンだったが、一抹の不安はあった。
何よ…マスコミも早すぎない?とことんまで追い詰める気ね?
母親の私に対して、そんな事をして無事に済むと思ってるの?
韓国は儒教の国。
いくら罪だからといって「子が自ら親を告発する」事にアレルギーを持つ人は多い。
世論を味方に出来れば、こんな騒動すぐに鎮静化するわ!
取り調べが始まっても、スミンの弁護士はなかなか現れなかった。
「弁護士が来るまでは話しません!電話をさせて!」
イラつきを隠せず答えたが、どうもおかしい。
いくら電話をかけても、秘書はおろか、顧問弁護士も一人として電話に出なかった。
刑事が少し呆れ顔で言った。
「もういいですか?」
「も、もう一件だけ!」
悔しいけど…絶対にかけたくはなかったけど、背に腹は代えられない。
スミンは、最後の望みをかけて、シンガポールに住む夫に電話をかけた。
しかしその電話は、無情にもつながる事はなかった。
がっくりと肩を落としたスミンは、そのまま黙秘を通した。
黙秘したまま刑事と睨み合っていると、扉が開き、背の高い男が入って来た。
「お疲れのようですね」
メガネ光らせたシムチャンミンが、上から冷たい視線で見下ろしていた。
チャンミンが視線を送ると、刑事は黙って席を立った。
冷たい取調室には、スミンとチャンミンの二人だけになった。
「シムチャンミン…何の用?笑いに来たの?」
「とんでもない」
「ふざけないで!アンタ達でしょ?私を告発したのは!さっさとここから出してちょうだい!」
ゆったりと前の椅子に座り、長い脚を組んだチャンミンは、胸ポケットから白いハンカチを出し、キュッキュとメガネを拭いた。
…ムカつく!この余裕の態度!捕まった私を楽しげに見てるわね!
だけど誰も電話に出ない今、この男しかいないのかもしれない…。
「シム秘書、誰も電話に出ないの。どうなってるの?ユノは?母親が捕まったのに何もしないの?」
「……」
「何とか言いなさいよ!どうなってるのよ!」
チャンミンは唇の端だけで薄く笑い、さらりと髪を直した。
「スミンさん、あなた…私が子供の頃から、随分シム家の事をバカにしてくれましたよね。まるでチョン家の召使のように、僕を扱った…」
な、何なの?いったい何の話よ!
スミンはイライラしながら返事をした。
「そ、それは…間違っていないじゃないの!シム家は代々チョン家に仕える家で…」
「それは違います。あなたは知らないでしょうが、昔からシム家はチョン家を支え共に生きてきた。チョン家の闇はシム家の闇。両家は運命共同体であり、私はそのシム家の筆頭です」
「そ、それが、何なのよ」
「全く…相変わらず頭が悪いですね。チョン家はあなたのムン家を切る事は出来るが、シム家は切ることが出来ない」
スミンはわなわなと体を震わせた。
「ど…どういう意味よ…。まさか、ムン家を切るつもり?それは無理よ!ムン家がどれだけCYの事業に関わっていると思ってるの?そう簡単には…」
「ハハハ。ムン家が関わっている部門は、チョン家にとってそれほど重要ではない。ユノ兄の命令一つで一週間以内には、全てを清算できますよ」
「…な、なんですって…?」
「私がここへ来た理由は、貴方を助ける為ではありません。チョン家の会長…あなたの書類上の夫に頼まれてきただけです。これを渡しに」
チャンミンはそう言って、スミンに数枚の書類を手渡した。
「え?離婚届け…?」
「違います。離婚通知書です。あなたとウンソク氏は結婚時、契約書を交わしていますね?そこに「チョン家の名誉を著しく傷つけた場合は、離婚に応じなければならない。その際、いかなる財産も全て没収する」とあります」
バサバサと慌てて書類に目を通すスミンの顔色は、みるみる真っ青になった。
「ちょ、ちょっと待ってよ!この逮捕は間違いよ!私は何もしてない!ユノが被害届を引き下げれば済む話なんだから!」
チャンミンは、ハハハと乾いた笑いを見せた。
「何故ユノ兄が被害届を引き下げるのです?今回逮捕を命じたのはユノ兄ではありません」
ユノが告発したんじゃないの…?では一体だれが…?
相変わらず頭が悪いですね…
※※※
チョン家からバッサリと切り捨てられたスミン。
やり過ぎましたね。もう帰る場所はないでしょう。
次回ユノの独白。
スーパーαの子供時代とは?
スーパーαが故の苦悩があったんです。
ハッピーセット届きましたの声、とても嬉しく安心しております^^
「家族の目を盗んでこっそり読んでいる」との声に、ほっこり♡
いつも私に笑顔をくれる皆様、感謝♡感謝♡です^^