もうすぐ6月10日がやって来ますね!

今年も「ハッピーセット2024」を発売いたします。

 

という事で、今日は新刊「君には別れ 僕には待つということ」の冒頭をご紹介させていただこうと思います。

切なさ満載のラブストーリーになっております。

それでは、どうぞ!

 

 

 

「君には別れ 僕には待つということ」

 

 

◆第一章◆

 

 

春、桜が咲くと思い出す。

初めて君に出会った日の事を。

 

桜が舞い散るあの公園で、僕たちが初めて友達になった日の事を。

 

 

 

子供の頃、家の近くに大きな公園があって、そこらに住む子供たちはみんなそこで遊んでた。

池や大きな木が沢山あって、森のようになっている公園は、夏は日影が出来て涼しい風が吹いていた。

 

桜の木も多く、春にはお花見をする人も多かった。

小さい子供からお年寄りまで、沢山の人が利用する公園は、ちょっとした町のスポットで、大人たちはここで人間関係を、子供たちは友達を作った。

 

ある日、僕はいつものように友達を誘って公園で待ち合わせをしていた。

今日は、何をして遊ぼうかと待ち合わせのベンチに座って、ぼんやりと友達が来るのを待っていた。

 

「チャンミン」

 

後ろから声を掛けられ、それが自分の兄である事を分かっていた僕は、大きく手を振って答えた。

 

「ユノ兄、今日は早いんだね。部活は?」

 

6つ年上のユノ兄は、中学2年生の14歳。

年の割に背が高く、テコンドーで鍛えられた体は中学生に見えず、初対面の大人は必ず「大きいねぇ」と驚く。

僕も背が高いほうだが、まだ小学2年生の体は兄に遠く及ばず、いつか兄の背を抜こうと、こっそり牛乳をしこたま飲んでいる事は、兄には内緒だ。

 

「今日は休んだ。それより友達と遊ぶのか?今日は家族で食事に行くと父さんが言っていただろ?早く帰れよ」

「分かってる。6時までには帰るから」

「ん。ならいい。車に気をつけろ」

 

クシャッと頭を撫でられて、思わず首をすくめた。

兄さんはスキンシップが多くて、僕はこうやって子供扱いされるのが嫌だったからいつも逃げるのだけれど、今日は逃げ損ねた。

 

いつも優しい兄さんは、そんな僕を楽しげに笑い、余計に追いかけてくる。

スポーツも勉強も出来る兄さんが僕の自慢なんだけれど、最近なんだかそれが恥ずかしくて素直に言えない僕。

今日も、じゃあと手を振って帰ってゆく後ろ姿を眺めながら、兄ながらなんてかっこいいんだろうと思っている事も、兄には内緒。

 

 

今日は時間が無いから、早く友達が来て欲しいと思っていると、僕の目の前に綺麗な女の人が、車椅子に乗った子供と、散歩をしているのが目に入った。

白いワンピースを着たその女の人は、車椅子の子供の母親なのだろうか。

母親らしくないサラサラの長い髪や、上質な洋服、車椅子に乗った子も、シャツのボタンを一番上まで止めて紺色のカーディガンを羽織っていて、ここら辺では見た事のない、お金持ちっぽい人たちだった。

 

あ…車椅子…あの子は歩けないのかな…。

 

真っ黒いサラサラのショートカットの髪が顔を覆い隠し、少しだけ見える横顔がとても可愛くて、きっと女の子だろうと思ったけど、着ている洋服が男の子っぽいし、いったいどっちなんだろう…?

そんな事を考えながら、ぼんやりと見つめていた。

 

前を向いていた子が、後ろを振り返り、母親と目を合わせて嬉しそうにほほ笑んだ。

 

ドキン…!!

 

まっ白でまるでミルクみたいに綺麗な肌に、大きくて零れそうな目が潤んでいる。

整ったつんと高い鼻に、プクッとした可愛らしい唇がピンク色でプルプルしてる。

 

なんて…なんて…可愛い子!!

 

僕の心は完全にその子に掴まれてしまって、全てを忘れてしまうほど、僕はその子を見つめていた。

 

…こんな事、初めてだ。

さっきから、僕の心臓はおかしくなってしまったのか、ドックンドックンと大きな音を立て続けている。

 

僕があんまり見つめているからか、その子が僕に気がついて、僕の事をじっと見つめていた。

その大きなその目で見つめられると、僕は吸い込まれたようにその目から目が離せなくなってしまった。

 

その子の母親が気付いて、僕の所に車椅子を押しながらやってきた。

どうしよう…僕は急に緊張してきて、何度も生唾を飲み込んだ。

 

「こんにちは。このあたりに住んでいるの?」

 

しゃがんで視線を合わせ、ニッコリとほほ笑みながら優しい声が聞こえてきた。

ふわりと花のようないい匂いがする、綺麗な女の人。

車椅子の子も、ニコニコとほほ笑みながら、僕を見ていた。

 

「ぁ…はい」

「そう…。はじめまして。君は…何年生かしら?」

「あ、2年生です…」

「そう、ジェジュンの二つ下ね。この子と、お友達になってあげてくれるかしら?」

「え?」

 

僕はとても違和感を、感じた事を覚えている。

 

友達というのは、親がお願いしてなるものじゃない。

気が合う者同士が、自然に一緒に遊びだして、いつのまにかなっているのが友達、僕はそう思っていたから。

だから、曖昧に「はぁ…」などと返事してしまった。

 

「本当?僕と友達になってくれる?僕はキムジェジュン。4年生だよ」

 

花が綻ぶようにほほ笑んだキムジェジュンは、もしかしたら女の子かな?そうだったらいいなと感じていた淡い期待を打ち砕いた。

すっと差し出された白い手は、僕の2つ上には思えないほど小さくしなやかで、ニコニコとほほ笑む可愛らしい笑顔も、やっぱり女の子だったんじゃないかと思わせるほど、可憐だった。

 

「あ…僕は、チョンチャンミン。2年生です」

 

握手をすると、コロンとした柔らかい手は小さくて、何から何まで僕が知っている男友達とは違った。

 

ザワ……ッ。

 

急に大きな風が吹いて、僕たちの上に咲いていた桜の花びらが沢山振ってきた。

キムジェジュンは、桜の花びらの中で、ほほ笑んでいて。

その姿がなんだか儚くて、今にも消えてしまいそうで、僕は握っていた手にきゅっと力を込めた。

 

「ねぇ、チャンミンって呼んでいい?僕の事もジェジュンって呼んで欲しい」

「うん…わかった」

 

僕がニコッと笑うと、ジェジュンは嬉しそうに微笑み返してくれて、僕たちはいつまでも手を握っていた。

 

「ねぇチャンミン、僕この公園初めてなんだ。何があるの?」

 

僕は、この公園には池があってそこには亀がたくさんいることや、大きな木に登って見る夕日が綺麗な事や、日曜日のグラウンドには野球をする大人たちがいるのだが、夕方ぐらいになると皆ビールを飲みだして、結局日影でビールばかり飲んでいる事を教えてあげた。

 

その度にジェジュンは、目をキラキラさせて楽しいそうに聞いていた。

 

「ジェジュンは…歩けないの?」

 

車椅子を指差すと、ジェジュンは首を横に振った。

 

「ううん。足は悪くないの。ただ、ここが悪くて…」

ジェジュンの白い指が、自分の胸を指していた。

 

「心臓?」

「うん。だから歩いたり走ったりできない。チャンミンが教えてくれた大きな木にも登ってみたいけど、ね…」

少し寂しそうに俯いたジェジュンに、悪い事を言ってしまったかと、僕も俯いた。

 

「で、でも、歩ける時もあるから!調子がいいときは車椅子に乗らなくてもいいんだ!だから…」

 

…僕と友達になって…!

 

言葉にならない声が聞こえた気がした。

初めに感じた違和感、「友達は自然になるものだ」そんな考え方が傲慢だと気付いた。

もし自分が病気で友達と同じように遊べなかったら?どうやって自然に友達になるっていうんだ?

 

ジェジュンが、僕が自分のせいで落ち込んだと焦っている事に気づき、僕は努めて明るく頷いた。

ジェジュンもそのあと何も言えなかったけど、僕に合わせて明るく頷いた。

 

何も言わなくていい気がした。

 

車椅子に乗った子と友達になった事もないし、どうしたらいいのか分からなかったけど。

何故だろう、ジェジュンとは友達になれるって、そう思えた。

 

 

 

 

僕と友達になって…!

 

 

 

※※※

病弱で健気なジェジュンとチャンミンとの出会い。

そこにユノも加わって、ジェジュンの夢の為に少年たちが奔走します。

一年かけて頑張って書いた作品です。

是非お手元にとって、読んでいただきたいと思っています(*'ω'*)

 

「ハッピーセット2024」発売は、ユンジェ記念日の6月10日PM8:00~。

こちらのブログでお待ちしています♡