後ろから羽交い絞めにされ、首にナイフを突きつけられたジェジュンは、どういうことか分からずにガタガタ震えていた。

 

「あ、アンタ何者?どうしてこんな事…」

「…ったく予定が狂っちまった。黙って食ってくれりゃ、こんな事せずにすんだのによォ。勘がいいのも困りもんだぜ」

「料理に何か混ぜたな?」

 

ジュンスがそう叫ぶと、男はニヤニヤ笑いながら言った。

 

「お前らオメガにとっちゃマタタビみたいなもんだ。だがバレちゃしょーがねぇ。そこのお前‼少しでも動いたり通報したりしたら、コイツの命はねぇぞ!動くなよ!」

 

その時、震えるジェジュンから微かに甘い香りが感じられた。

 

「ほぉ~…お前、いい匂いさせてるな…ハハッこれは…楽しめるかもな…。すぐに仲間が来るから少し大人しく待ってろ」

 

べろりと舌なめずりする男の鼻息が荒くなっている。

ジェジュンは怖い気持ちと同時に、ムカムカと怒りが込み上げてきた。

 

まただ…またなのかよ!

いったい何なんだよ!どいつもこいつも!

店の借金のカタに売られそうになった記憶、子供の頃アルファに売られたジュンス兄、親戚中のアルファをたらいまわしにされた自分の親イファ。

みんなみんな…一生懸命生きているだけなのに。悲しいオメガたちの叫びが頭によぎる。

クソアルファ達は、当たり前にオメガを搾取し、その事に罪悪感すら持っていない。

悔しい…!悔しい…!

なぜオメガだけが、こんな目に遭わなきゃならないんだっ!!

 

「ジェジュンを離せ!」

「いいからお前は黙ってろ!こいつの後はお前を可愛がってやるからよ!」

「こんな事してタダですむと思ってるのか?お前が羽交い絞めにしている相手が誰だと…」

 

ジュンスと話しているうちに、男の腕の力が一瞬弱まった。

 

今だっ!!

 

ジェジュンは男の腕を掴み、潜り込むようにそのまま真下にしゃがみ込んだ。

そして力いっぱい拳を握り締め、心に溜まったモヤモヤを拳に込めた。

その中には、ユノに会えないモヤモヤ、いや会えなくなってしまったのはコイツ等クソアルファのせいで、10日もユノに触れてもらっていない思春期ジェジュンのムラムラも込められていた。

そのまま真上に勢いよく立ち上がりながら、男の顎めがけてこぶしを突き上げた。

 

「オメガ舐めんなぁっ!!」

 

ガコ――ンッ!!

 

ジェジュンの拳は男の顎にクリティカルヒット!

しかもその拳には、ユノがハワイで買ってくれたごつい指輪があり、それがメリケンサックのように顎にめり込み、アッパーカットが炸裂したのだ。

 

「あがぁっ!!」

 

男は変な声を上げ、そのまま真後ろに崩れ落ちた。

 

「ジェジュン!大丈夫?」

 

ジュンスが駆け寄り、ジェジュンと二人で男が気を失っている事を確認した。

白目をむいてひっくり返った男を、ハム太郎とピカチュウが急いで手や足を縛り上げた。

 

「ふぅ…これで大丈夫。もし起きても何もできない」

「ジュンス兄…僕、アルファをやっつけたんだよね?」

「うん!ジェジュン、すごいよ!」

 

すぐにジュンスがユチョンに電話をすると、SPがやって来て、二人を別室に案内してくれた。

その時のSPへのユチョンの怒号は、ものすごい剣幕だった。

 

「俺が行くまでその男を絶対に逃がすな!生まれてきたことを後悔させてやるっ!!!」

 

普段滅多に怒らないユチョンの怒りの叫びは、SP達を震え上がらせた。

別室に向かったジェジュンとジュンスだったが、ジェジュンはその時になってやっと自分の拳がパンパンに腫れ上がっているのに気づいた。

人を殴った事のないジェジュンは力加減を知らなかったのだ。

 

「うぅ~ジュンス兄、痛いよぉ」

「あぁ腫れてるね。折れてないと思うけど…病院に行った方がいいね」

 

ジェジュンは着替えてSPと共に病院に向かい、ジュンスはユチョンが来るのを待った。

 

「ジュンスッ!!」

 

部屋に飛び込んできたユチョンは、ジュンスをギュッと抱きしめた。

 

「大丈夫か?ケガはないか?何かされなかったか?」

「大丈夫。ジェジュンがやっつけてくれたんだよ」

「そうか。…え?ジェジュンが?何があった?」

 

全てを聞いたユチョンは、もう一度ジュンスを抱きしめた。ヨシヨシ

 

「ちょっと行ってくれるからここで待ってろ」

「ユチョン、ユノ兄は?」

「ジェジュンの所に行かせる。ユノ兄だと何するか分からんから、俺が聞き出す」

「うん…ユチョン気を付けてね」

「あぁ。すぐ戻るからイイ子で待ってろ」

 

ユチョンはピカチュウのフードを被らせ、ジュンスの頭をポンポンと撫でて、部屋を出て行った。

 

 

病院に行ったジェジュンだったが、骨折もなく湿布をしてもらって病院を出た。

すると、ギャギャギャ!とものすごい音を立てて、ジェジュンの前に車が止まった。

 

「ジェジュンッ!」

「え?誰?」

 

車から飛び降りた男を見て、ジェジュンは最初誰だか分からなかった。

頬はこけ、目は落ちくぼみ、髪も肌もパッサパサ。

青髭びっしり、げっそりと痩せこけたユノだった。

 

「うっ…ジェジュン!じぇじゅーん!」

 

ジェジュンを抱きしめて、おいおいと泣き出したユノに、やっとこのモサイ男がユノだと分かったジェジュンは、驚きで体が動かなかった。

まさか、スーパーαであるユノが、こんなにも弱るなんて。

いつだって国を動かす程の大きな采配を下し、どんな権力者にも屈せず、クールで知的でタフなユノ。

それが、誰が見ているか分からない、こんな道の往来であられもなく泣くなんて。

 

「ゆの…?どうしちゃったの?こんなに痩せちゃって…」

「うっうっ…会いたかった…会いたかったんだっ…!」

 

ジェジュンは優しくユノを抱きしめ、背中をさすりながら言った。

 

「どうして?会いたかったなら、会いに来ればよかったのに」

「だって…俺、嫌われて…。ジェジュン、俺に…会いたくなかっただろ?ぐすん」

「そんな事思ってないよ。ちょっと…考える時間が欲しかっただけ…」

「ホントに?俺の事、嫌じゃない…?」

 

ジェジュンは体を離し、はらはらと涙を流すユノの頬を指で拭った。

ユノに抱きしめられたジェジュンは、悩んでいたことが一瞬で吹き飛んだように感じた。

孤高の存在のように思っていたユノが、僕がいないとこんなにダメになっちゃうんだ…。

ジェジュンは初めてユノを可愛いと思い、守ってあげたいと思った。

 

やっぱり、僕はユノを愛してるし、僕にはユノしかいないんだ…。

 

「嫌じゃない。嫌だと思った事もないよ」

「ホントに?俺…嫌われたと思って…きっと会ってくれないと思って…」

 

グズグズと泣くユノの背中をポンポンと叩き、大きな体のユノを抱きしめた。

まるで母のように。

 

やっとユノは落ち着きを取り戻し、ふとジェジュンが巻いていたマフラーに気づいた。

それはグレーのチェックのマフラー。

 

「あ…このマフラ―…」

「そう。ばーちゃんのお葬式の時にユノがくれたマフラーだよ。これ、僕の宝物なの」

 

マフラーを指さしたジェジュンの手に、包帯が巻かれていた。

 

「えっ?ジェジュン、ケガしたのか?誰だ?誰がジェジュンにケガを…」

「ゆの、聞いて?今日ね、アルファを僕がやっつけたの。この拳で一発だよ。すごいでしょ?」

「え?まじで?すっげーじゃん」

「うん!うふふ」

 

ジェジュンの笑顔を見て、ユノはまた泣けてきた。

この笑顔を見るために、自分は生きているとさえ思った。

気まぐれにやったマフラーを大切そうに「宝物」と微笑むジェジュン。

何でも出来るスーパーαの自分が、ずっとずっと追い求め、だが決して手に入らなかったもの。

可愛くて、温かくて、母のように自分を包んでくれる、大好きなジェジュン。

 

ユノはまたジェジュンを抱きしめると、耳元で囁いた。

 

「あぁ…やべぇ…めっちゃ抱きたい。ジェジュンを抱きたい」

「…うん。いいよ」

「ホントに?じゃあ帰ろう。俺達の家に。今すぐ帰ろう!」

「うん!帰ろ!」

 

二人はユノが乗ってきた車に乗り込み、すごいスピードで帰って行った。

 

 

 

 

会いたかったんだ…!

 

 

 

 

※※※

ジェジュンが自分で一発KOに仕留めました!やったね!

強くなり、それが自分の自信にもつながっています。

次回、二人がやっと番に…♡あめ限です。