オメガを誇りに思うと言ったジェジュンを、ジュンスが優しく抱きしめた。

 

「そうだね、諦めちゃダメだよね。僕もジェジュンに協力する。一緒に頑張ろう」

「うん。ジュンス兄ありがとう。心強いよ」

 

顔を見合わせた二人がニッコリ笑うと、ぐぅ―とジェジュンのお腹が鳴った。

 

「お腹すいてきちゃった」

「ルームサービスを頼もうか。ここのルームサービスはすっごく美味しいんだ。ユチョンが年間を通じてこの部屋を借りているのも、ここのシェフがお気に入りだから」

「ユチョン兄は、料理にうるさいもんね~」

「そうそう。世界中の美味しい料理を知ってるの。いつも僕に教えてくれるんだ~。この前食べたフレンチも最高でさぁ~。僕は堅苦しいマナーは嫌いなんだけど、やっぱり美味しいもの食べるには我慢って言うか、堅苦しいのも意味があるっていうか…」

「はいはい、ごちそうさま。食べる前から胸やけしそう^^」

 

二人は、やいやい言いながらメニューを決め、ルームサービスを頼んだ。

しばらく可愛いネコ動画を見て、二人で盛り上がっていると、部屋のチャイムが鳴った。

 

「あ、来た!ルームサービスが来たぁ~♡」

 

ジェジュンが飛び出し扉を開けると、ワゴンを押したホテルマンが頭を下げていた。

ホテルマンはワゴンを押して部屋に入り、テーブルの上に料理を並べていく。

 

「わぁ~いい匂い!美味しそうだね、ジュンス兄!」

 

するとジュンスが怪訝そうな顔で言った。

 

「え?いつもはシェフ直々に持ってくるのに…。シェフはどうしたの?」

「あ…シェフは今、手が離せないもので…」

「は?このホテルにおいて、ユチョンより優先される事なんか無いはずだけど?」

 

チッ!とホテルマンが舌打ちすると、そのまま横にいたジェジュンを羽交い絞めにした。

 

「えっ!な、なに?」

「大人しくしろ!騒げばコイツの喉を掻き切る!」

 

ジェジュンの首には、ナイフが押し付けられ、ようやっとジェジュンは今の状況が飲み込めた。

ホテルマンには似合わない太い腕が、後ろからジェジュンを羽交い絞めにし、首に冷たい感触が当たっていた。

ジェジュンの細い首など、一瞬でもいでしまいそうに強い力。

 

「な、何なんだよ…アンタ、誰だよ…」

 

震えながら言うジェジュンに、男は笑いながら言った。

 

「大人しくしてれば危害は加えない。それより、気持ちいい事かも知らねぇぞ?フフン」

 

ジェジュンは震え、ジュンスはナイフを突きつけられたジェジュンを見て、どうする事も出来なかった…。

 

 

 

チャンミンは、チャンギ国際空港の長い廊下を走っていた。

手続きを済ませるとすぐにラウンジに向かい、スマホを取り出し充電した。

充電切れを起こしていたスマホにライトが灯ると、ヒチョルから数回電話が入っていた。

メールも入っていて確認すると、「会って話がしたい」との事だった。

折り返し電話をしたが会議中の様だし、自分ももうすぐフライトの時間だ。

チャンミンはヒチョルに、韓国に着く時間をメールした。

 

フライト中もチャンミンはずっと考え込んでいた。

ヒチョルが話したいことは何だろう…。

それより自分も、ヒチョルに話したい事があった。

 

空港に降り立ち、すぐにヒチョルに連絡を取ると、空港に迎えに来てくれているらしい。

チャンミンは足早にヒチョルの元に向かった。

 

「チャンミンさん!お疲れ様」

「ヒチョルさん。わざわざ来てくれてありがとう」

 

軽いハグを交わし、すぐにヒチョルの車に乗り込む。

 

「早速ですが…話したい事って…?」

「えぇ。近くのホテルを取りました。外に漏れたくないので」

「…分かりました」

 

ホテルの部屋に入ると、ヒチョルはソファに座り、チャンミンにも座るよう促した。

 

「シンガポールはどうでしたか?調べたい事があると言っていましたが」

「えぇ。行って良かったです。それより、話したい事って…なんですか?」

 

ヒチョルは、両手を組み少し興奮したように言った。

 

「スーパーαの秘密が分かりました」

「えっ!本当ですか?」

「実はオメガの研究をしているシンドン博士とコンタクトが取れました。そこでスーパーαが誕生する条件を聞き出せました」

「条件…?もしかして…スーパーαの造り方が分かったという事ですか?」

 

ヒチョルは頷いた。

 

「スーパーαが生まれる条件は、オメガにあったんです」

「オメガに?どういうことですか?」

 

「私はずっとスーパーαを造るには、アルファの条件がある筈だと思って探してきました。でも違ったんです。スーパーαは、ある条件がそろったオメガから生まれるんです!」

 

数日前のシンドンとの会話が思い出された。

 

「昔からこの社会はアルファが実権を握り、アルファによって構成されている。富裕層のアルファが婚姻する時は、決まってアルファ同士で行われる。昔はアルファ同士では子供ができにくい為オメガの妾を貰い、オメガに子供を産ませた。それがオメガ保護法に引っかかる様になり、公に妾を取れなくなったが、みんな密かにオメガに子供を産ませている。誰もが知っている事だが、それを頑なに認めようとしない。オメガと婚姻することは罪だとでも言うように…」

 

「全てはオメガに対する偏見が根底にあるからですよね。子供は欲しいくせにオメガを差別している。オメガを認めようとしないアルファが産んだ歪みです」

 

「そうだ。み~んなスーパーαは、アルファが関係していると思っているがそれは大きな間違いだ。スーパーαが生まれるにはオメガが必要不可欠だ。それも特殊なオメガだ。俺はそのオメガをスーパーΩと名付けた」

 

「スーパーオメガ、ですか?その条件とは?」

 

「スーパーΩの条件は、オメガ×オメガの子供であり、男同士である事。そしてそのスーパーΩと運命の番との子供が、スーパーαになる」

(♂オメガ×♂オメガの子供=スーパーΩ。スーパーΩ×運命の番の子供=スーパーα)

 

「ちょ、ちょっと待って下さい。男のオメガ同士の子供って事ですよね。それは…そんな人はいないんじゃ…。オメガ同士の子供は絶対にオメガになる。苦労するのが分かっているのに、わざわざオメガの子供を作る人はいないと思います。しかも男同士って…。ありえない。大抵のオメガはベータかアルファと子供を作ります」

 

「ヒチョルさんも分かっていると思うが、男のオメガ同士から生まれたオメガは、言葉は悪いが「最底辺」として認識される。誰もそんな立場に自分の子供を追いやりたくない。だから滅多にスーパーオメガに会う事はないだろう」

 

「そして、スーパーオメガと子供を作ったアルファ達も、みんな「最底辺」との子供だと、知られたくないから頑なに隠す。まるで「恥」とでも言うように。だが世界のスーパーαのデータを密に調べたから間違いない。スーパーαはみんな、スーパーΩから産まれている」

 

 

話を聞いたチャンミンが、絶句していた。

ヒチョルも困ったような顔で言った。

 

「私も最初に聞いた時はにわかには信じられませんでした。男のオメガ同士が子供を作るなんて。みすみす自分の子供が苦労するのが分かっているのに…そんな人は本当にいるんでしょうか」

 

チャンミンはヒチョルの肩を掴んで、はっきりと言った。

 

「ヒチョルさん、その話は本当です。シンガポールで調べたいこと、それはユノ兄の出自でした。ユノ兄の母親は、ムンスミンではありませんでした。会長との運命の番であり、ユノ兄を産んだイトゥクさんは…スーパーΩです…!」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「しかも、ユノ兄が運命の番だと思っている相手、キムジェジュンも、スーパーΩです!」

 

「な、なんという事だ…。では、この国の行く末はキムジェジュンにかかっているという事か。しかし彼は確か不妊という診断があったはず…」

「それでも全ては、ジェジュンにかかっている。彼の子供が、この国を救うと言っても過言ではない!」

 

ヒチョルとチャンミンは目を合わせ、同時に立ちあがった。

 

「すぐにキムジェジュンを保護しましょう!彼は今どこに?」

 

その時、チャンミンの電話が鳴った。

電話を受けたチャンミンの顔色がみるみる険しくなった。

 

「……えぇっ?ジェジュンとジュンスが襲われた?!」

 

チャンミンの驚いた声が部屋に響き渡った。

 

 

 

 

全ては、ジェジュンにかかっている。彼の子供が、この国を救うと言っても過言ではない!

 

 

 

※※※

国が喉から手が出るほど欲しいスーパーα。

それを産むことが出来るのは「最底辺」と蔑まれるスーパーΩでした。

そしてジェジュンはそのスーパーΩ。

ヒートが遅かった、フェロモンの香りが違うなど、異質だったジェジュンの理由はそこでした。

そんなジェジュンが襲われた?どうなる?

(スーパーΩはこの物語だけの設定です^^)