「少し、昔話をしようか…」

ユチョンは静かな口調で話し始めた。

 

「俺はまだガキの頃、ジュンスを手放しちまった事がある。俺がバカだったから気付けなかったんだ。そのせいでジュンスを守れなかった。俺の力が足りないばっかりに、ジュンスに一生消えない傷を負わせた」

 

「え…?消えない傷って…まさか…」

 

「あいつはアルファに売られた経験がある」

 

ジュンスはいつも笑っていた。

同じオメガであるジェジュンにいつだって優しくしてくれて、守ってくれた。

そんなジュンスに、辛い過去があったなんて考えた事も無かった。

 

「お前がクソアルファって言いたくなる気持ち分かるよ。実際クソみたいなアルファも多い。いつだって傷つくのはオメガだし、名ばかりの保護法も機能していないよな。でもよ…」

 

「最低アルファのせいでジュンスが傷つき、俺も傷ついた。俺たちの母親のせいでジェジュンが傷ついて、俺たちも許せないと思った。ユノ兄は母親の目の前で強化ガラスの机をたたき割った。最低な奴もいるけど、お前と同じように傷ついて心を痛めるアルファもいるって知って欲しい」

 

「分かってます。ユノ兄やユチョン兄がそんな人達じゃないって事。でも…心が付いてこない。両親の事を想うと辛くて…。スミンさんはユノの母親だからと、ユノにひどい事を言ってしまいそうで…。それを止める自信もありません」

 

「そうだな。ジェジュンの立場じゃそう思うよな。ユノ兄は、お前の親の事知ってたよ。ムン家がしでかした事だけど、ユノ兄はチョン家当主として、ジェジュンのばーちゃんに謝罪に行ったんだ。一人で病室を訪ねたって言ってた」

 

「え?ウソ…何も聞いてない…」

 

「うん。ユノ兄が口止めしてた。ジェジュンのばーちゃんも、ユノ兄が直接謝罪してくれるなんて思わなかっただろうし、その気持ちは理解してくれたようだ。ジェジュンの事を頼むと、それを約束してくれたら謝罪は受け入れると言っていた」

 

あぁ…そうか…。

だからばーちゃんはすごく安心した顔でいたんだ。

ばーちゃんの最期が安らかだったのは、ユノのおかげだったんだ。

 

「誤解すんなよ。ユノ兄がジェジュンを大切にしているのは、運命の番だって事と、何よりジェジュンの事を愛しているからだ。それは間違えないでやって欲しい」

 

すっかり大人しくなってしまったジェジュンの頭を、ユチョンは優しく撫でた。

 

「お前不思議に思ったことない?ジュンスはいつだってどんな小さな事も俺に相談して、俺を頼る。ジュンスは一人で何でもできるのに、どこへ行くのも俺に連れて行って欲しいとせがむ」

 

「うん。確かに…」

 

「あれはさ、俺を頼る事で「ユチョンが必要だ」と言ってくれているんだ。ジュンスが傷つけられた時、俺も傷ついたから、それを忘れないでいてくれてる。自分が傷ついたのに、俺の事を心配して、俺を守ってくれているんだ。俺はジュンスがいないと生きていけないし、ジュンスに頼られる事で生きてるって思えるから。あぁ~なんていい男なんだジュンス、好きだぁぁぁ」

 

「いい話だったのに、惚気になった」

 

「ふふ。俺が言いたいのはよ、スーパーαのユノ兄を、オメガのジェジュンが守ることが出来るって事。今だってちょーっとジェジュンに冷たくされただけで、50年は歳喰ったじーさんみたいだそうだ。もーヨボヨボのショボショボだってチャンミンが笑ってたぜ」

 

「よぼよぼの…しょぼしょぼ…?」

 

「まぁ気持ちに区切りがつくまでここにいろ。ムン家がやった事は俺だって許せないと思う。ましてやお前の母親の事だ。少し一人で考えたいよな」

 

ユチョンはジェジュンに、ホテルキーを差し出した。

 

「ここは俺が年間で借りている部屋だ。必要な物はジュンスに届けさせるから。さ、飯を食え。辛い時こそしっかり食うんだ」

 

「うん…ありがと。ユチョン兄…」

 

ユチョンは高級韓牛を惜しみなく焼き、ジェジュンにたっぷり食べさせた。

 

 

 

チャンミンとヒチョルは、遅い夕食を一緒にとっていた。

 

「ヒチョルさんすみません。最近忙しくて連絡も差し上げることが出来なくて」

「いえ、私も忙しかったので。何かあったんですか?」

「ちょっとウチの当主が、使い物にならなくて」

「え?ご病気ですか?」

「いいえ。大した事ではありません」

 

ジェジュンに冷たくされたユノは、相変わらず腑抜け状態で、仕事の殆どをチャンミンが代行していた。

いつだって完璧なユノが、こんなに腑抜けになる姿は、チャンミンは一度として見た事が無かった。

 

運命の番とは…ある意味恐ろしいものですね…。

アルファなら「運命の番」を見つけるのが最高の僥倖だと人は言うけれど、私はあまり興味を持たない。

自分の全てを捧げるような恋より、ゆっくり一緒に歩んでいく、そんな恋人がいい。

目の前にいる、この美しい人のように…。

 

「ヒチョルさんは、運命の番についてどう思われます?」

「え?何ですか?急に…」

「あなたもアルファだ。いつかは運命の番に会いたいと…そう思われますか?」

「さぁ…出会ったことがないので、何とも言えませんが。私には…不向きかなぁと思います」

「どうしてですか?」

「運命の番に出会うと、自分の全てを番に捧げるような…そんな愛し方のような気がします。でも私は、人生を恋人だけに捧げたくないんです。やりたい事も、やらなければならない事もあると思っています」

 

ビンゴ。

まさしく、私が思っている事はそれだ。

運命の番のように激しさは無くとも、こうやって自分に合う人を見つけられたことに感動すら覚える。

 

「どうしました?チャンミンさん。プルプル震えて」

「ヒチョルさんが、あまりに自分と同じ意見を持っている事に感動していました」

「また大げさな。あなたは少し大げさすぎる…」

 

そう言いながらヒチョルの白い肌が赤く染まり、少し俯いて恥ずかしそうな顔を見せる。

チャンミンはにっこり笑いながら、そっとヒチョルの頬を撫でた。

ヒチョルの大きな目が、チャンミンを心配そうに見た。

 

「スーパーαの代行を務めるのですからお疲れでしょう。無理しないで下さいね」

「問題ありません、と言いたい所ですが、さすがに疲れてます。少し、甘えてもいいですか?」

 

疲れた横顔を見せるチャンミンが、あまりに艶っぽくて。

ヒチョルは、赤い顔のままチャンミンの髪を、そっと撫でた…。

 

 

 

スミンは、ユノの元を訪ねていた。

数日前、ユノに見合いの話をした時、何も言われなかったので、これ幸いと話を勧めた。

だが、その後一切の連絡がないので、ダメ押しで確認しに来たのだ。

 

今日はチャンミンの姿が見えず、ユノは一人自宅の執務室にいた。

チャンミンは、ユノの代わりに韓国中を飛び回って仕事をしていたのだ。

お察しの通り、ジェジュンに冷たくされたユノは完全にポンコツ状態で、仕事にならないので自宅で簡単な仕事をするよう、チャンミンに言われており。

当然のことながら、数日前のスミンの見合いの話も全く耳には入っていない。

 

「珍しいわね、ユノが一人でいるなんて。ま、あのうるさい秘書がいなくてせいせいするわ」

「……」

「ちょっと聞いてるの?ま、いいわ。もう一度言うけど、あなたの縁談、こちらのお嬢さんで進めているから。次期大統領と言われるイ議員の娘さんで…」

 

当然のことながら、スミンの話はユノの耳には全く届いておらず、頭の中はジェジュンの事でいっぱい。

思い出すのはジェジュンの笑顔、ジェジュンのドジ顔、ジェジュンの拗ねた顔、エチ中のジェジュンの泣き顔…白い肌に、自分が付けた無数の赤い跡…。

あぁ~…あの白い肌が桃色に燃え上がり、必死にしがみつきながら涙を零す、あの色気、あの熱、あの健気さ…思い出しただけで体が震える。俺は本当にジェジュンが居なければ生きていけないんだな…こんなにもジェジュンの事ばかり考えて、頭がおかしくなってしまったんじゃないだろうか。あぁジェジュン、会いたい、抱きしめたい、そしてあの細い体を抱きたい…ジェジュン…ジェジューン…じぇっじゅーん!

 

「ちょっと!聞いてるの?いいわね!来週の日曜日よ!見合いなんだから、ちゃんとするのよ!」

 

スミンは、見合いの時間と場所のメモを机に置くと、さっさと出て行った。

 

「うっ…じぇじゅ~ん…会いたい…」

 

一人になった部屋で、全く話を聞いていなかったユノが俯いていた。

 

 

 

 

じぇじゅ~ん(´;ω;`)ウゥゥ ←電話待ち

 

 

 

※※※

ジェジュンにプイッとされただけで、こんなにも爺ちゃんになってしまうユノw

意外にもユチョンはしっかりとジェジュンを慰めてくれました。

ユノはジェジュンがいないとダメなんだよ。

少し休んで落ち着いたら、ユノの所に帰ってあげてね^^

次回シンドン登場♡

 

アンケートにご協力ありがとうございました♡

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発売に向けて頑張ります(*’ω’*)