いつの間にか日は暮れて、ほの暗い街灯に照らされたまま、ジェジュンはベンチに座っていた。

動けなかったと言った方がいいだろう。

体は冷え切って、手は氷の様に冷たいのに、震える事すら忘れていた。

 

目の前に、キッと高級車が止まる。

中から、焦ったユノが下りてくるのが見えた。

 

「ジェジュン!どうした?大丈夫か?」

 

ジェジュンはぼんやりユノを見上げた。

大好きなユノが来たのに、ジェジュンの心に怒りの炎が灯った。

 

「なんで…ここが?…あ~…GPS?なるほどね…」

「ジェジュン…?」

 

ジェジュンの様子がおかしい。

酷く冷めた目をし、だが抱えきれない怒りを持て余しているような…。

 

「こんな薄着で!とにかく車へ。風邪をひいてしま…」

 

ジェジュンの肩を触ったユノの手を、ジェジュンがパンと振り払った。

ジェジュンが住んでいた町の病院、ジェジュンの冷めた視線、涙の跡、それだけ見ても、大体の事がユノには分かった。

だが血の気のない顔色、ちょっと触れただけで分かる冷え切った体をそのままにしておけない。

 

「ジェジュン、何があったか知らないが、体を温めないと」

 

ユノの言葉が、ジェジュンの怒りに着火した。

 

「何なの…?いったい何なんだよアルファって!オメガは産む道具じゃない!オメガはアルファの為に存在してるんじゃない!なんでオメガって言うだけで、こんな思いしなきゃならないんだよっ!!」

 

ジェジュンの心の叫びだった。

だがジェジュンは分かっていた。

これは、八つ当たりだ。

ユノはアルファだが、いつだってジェジュンを大切にしてくれた。

だけど、吐き出さなければやってられない、立っていられない。

哀しいオメガたちが言えなかった叫びを、口にせずにはいられなかった。

 

ユノが困った顔をしている。

ユノに言っても仕方がないのに止まらない。

だって…あの人はユノの母親だから。

 

「面倒くさいと思ってる?俺はそんな事一言も言ってないのに?俺はジェジュンを助けてきただろ?そう思ってる?」

「そんな事は思っていない。ジェジュン、頼む聞いてくれ。気持ちは分かるが違うんだ」

 

「は…?気持ちは分かる?…もしかしてユノ、知ってたの?僕の親の事…」

「っ…ジェジュン…」

 

ジェジュンは自嘲気味に笑い、何度も首を振った。

 

「あぁ~そうだよね、チョン家だもんね。どんな情報もすぐ手に入るよね。得体のしれないオメガを屋敷に入れるわけないもんね。でも知ってて…僕には言わなかったんだ。どんな気持ちで僕の事見てたの?可哀想だった?それとも僕に悪いと思ってそれで…」

 

「ジェジュン!そんな事は思ってない。アルファだろうがオメガだろうが俺には関係ない。分かってくれ」

 

思わず零れたユノのため息。

アルファだろうがオメガだろうが関係ない?それをアルファのユノが言うの?

ジェジュンの哀しい目がユノを射抜いた。

 

 

「じゃあユノは…生まれ変わったらオメガに生まれたい?」

 

 

ユノの体がピタッと止まった。

そしてユノは何も言えなくなってしまった。

 

ジェジュンは冷たい視線をユノに向け、そのまま立ち上がり歩き出した。

動けないユノの後ろから、ユノのSPが小さく会釈し、ジェジュンに分からないよう後ろをつけて行った。

 

何も言えなかった。

ジェジュンの言葉に、返すことが出来なかった。

 

「生まれ変わったらオメガに生まれたいか?」そんな事を考えた事が無かったのだ。

自分は産まれた時からアルファで、何でもすぐ理解できたし、何でも上手くできた。

人はいつも自分より劣っていて、そんな人たちを自分は導いていく立場だと、信じて疑わなかった。

その為に、毎日努力してきたし、その方が社会は上手く回ると分かっている。

 

自分は他の人間のようにオメガを差別した事はないし、むしろ可哀想なオメガたちを助けてきた。

だがそれは、いつだってアルファの目線で、アルファだからできた事で。

自分は一度だって「オメガ」の目線になって、考えた事が無かった。

 

もし自分がチョン家の長男でなかったら?もしオメガだったら?今のようなことが出来たか?

たまたまアルファに生まれ、たまたまチョン家の人間だったから出来た事なのではないか。

それなのに、自分は誰よりも慈悲深く、誰よりも力があると驕っていたのでは…?

ユノはその場にがくりと膝をついた…。

 

 

会社に帰ると、ユノの携帯にSPからメールが入った。

 

「大学近くのネットカフェ〇〇に入店。個室に入室。入店し警護継続中」

 

さっきからぼんやりとし、口を半開きにしたままのユノを、チャンミンが横目で見ていた。

 

「ちょっと、さっきから何なんですか?ジェジュンを迎えに行ったのでは?何か言われたんですか?」

「……」

「口を閉じなさいよ、よだれが出てますよ。寝てんのか?」

「……」←魂ノヌケガラ

 

ペシぺシと頬を叩くと、ようやくチャンミンを見たが、ユノの目はどんよりと死んだ魚のような目だ。

何とか事の次第を聞き出したチャンミンは、んん~と渋い声をあげた。

 

「生まれ変わったらオメガに生まれたいか、ですか…。痛い所を突きますね」

「俺…何も言えなかった。考えた事も無かった。目から鱗だ。俺は…何も分かっちゃいなかった…」

「仕方ありませんよ。人生に「たら・れば」は無いんです。与えられた性で生きるしかないのですから」

 

ヨボヨボと爺さんのように歩き、しょぼしょぼと目をしばたかせ、まるで生気のないユノ。

 

はぁ~ユノは、まるで50年は歳を取ったようですね…これでは仕事になりません。

ちょっとジェジュンに冷たく言われたら、こんなに落ち込むものですかねぇ。

でもジェジュンの気持ちを考えれば、無理もない事です。

 

チャンミンは爺さんのようなユノを無視し、ジュンスに電話をかけた。

だが電話に出たのはユチョンだった。

何の用事でジュンスに電話をかけてきた?とウルサイので、ユチョンに説明をした。

 

「ジュンスは?今のジェジュンには、オメガであるジュンスが傍にいてあげて欲しいのですが…」

「ジュンスは風邪ひいて具合悪いんだ。熱が36.8度もある」

「…大した事ないのでは?」

「ダメ!悪化したら困る。ジュンスは絶対外には出さない!俺が代わりに行く」

「大丈夫ですか?ユチョンに誰かを慰めるってできます?」

「バカにすんな!そんで?ユノ兄はどうしてる?」

「ジェジュンに嫌われたと、爺さんのように老けてます。でもこっちの事は私に任せて。ジェジュンの事を頼みます」

 

チャンミンは、やや不安ではあったが、ユチョンにジェジュンの居場所をメールした。

 

 

一人になりたくて街を歩いたが、行く場所が思い当たらなかった。

結局自分が知っている唯一の場所、大学の近くをウロウロしていた。

たまたまネットカフェの看板が目に入り、狭い個室に入ったが、頭は回らなかった。

僕はいったい何がしたいんだろ…。

ユノに八つ当たりしてひどい言葉を言って…でもちっとも心は晴れない。

うじうじと思い悩んでいると、ガラリと扉が開いて、そこにユチョン兄が立っていた。

 

「よォ、ジェジュン。飯、喰いに行こうぜ」

 

強引に手を引かれ、ユチョンが好きな高級焼き肉店に入った。

そこは個室で、次々運ばれてくる高級韓牛が、ライトに照らされ美味しそうに輝いていた。

ユチョンは、ジェジュンの前にドン!とグラスを置き、焼酎をトプトプ注いだ。

 

「あ、僕…お酒は…」

「酒は…こ―いう時に飲むもんなんだよ」

 

ユチョンに促され、初めてグイっと焼酎を口にしたが、思ったより悪くなかった。

 

「お、イケル口だな。もう一杯」

 

喉から腹が焼けるように熱くなり、しばらくすると体がポカポカ温まった。

頭の中がフッと軽くなり、何もかもがどーでもよくなってきた。

 

「話はチャンミンから聞いた。ほれ、アルファに言いたい事があるだろ。言っちまえ。ぜーんぶ吐き出せ」

「う~~…く、クソアルファ~」

「お、いいぞ。もっと言え」

「なんだよ、お前らが優秀なのも力が強いのも…ぜーんぶアルファに生まれたからだろっ。たまたま生まれが良かっただけのクセして、エラソーにしやがってよぉ。オメガ舐めんな!」

「うんうん。そーだよな」

 

「オメガは産む道具じゃない!ヒートがあるだけで淫乱じゃない!好きでアルファを惑わせているんじゃない!俺たちから搾取するな!力づくで、俺たちを奪うな!ばかやろォ~~うぃっ」

 

頬杖をついたジェジュンの顔は真っ赤で、目は据わっている。

ユチョンはジェジュンの頭をひと撫ですると、静かな口調で言った。

 

「少し昔話をしようか…」

ユチョンは静かな口調で話し始めた。

 

 

 

 

クソアルファ~ヽ(`Д´)ノ うぃっ

 

 

 

 

※※※

生まれ変わったらオメガに生まれたいかと聞かれ、ユノは固まってしまいます。

持たざる者の気持ちがようやく身に沁みたユノ。

男性が女性の不安や恐怖に対し、イマイチ分かっていない事と同じですね。

ユチョン、ジェジュンを慰めてあげてください。

 

◆◆6月のハッピーセットの部数アンケートを週末に取りたいと思います。よろしくお願いします♡

٩( 'ω' )وふぃ〜何とか書き上がりました^ ^◆◆