「ユチョンは、随分あの子供にご執心のようで」
メガネを拭きながら、チャンミンが伺うように言った。
「施設育ちの子供と交流しないようにと、あなたの母親から嫌味を言われましたよ」
「何が施設育ちと交流しないように、だ。あのババぁ。マジでムカつく」
「ユノ兄、口が悪くなってますよ。まぁ気持ちは分かりますが…」
「ユチョンが認めた友達だ。俺たちが守ってやらなきゃいかんだろ」
「どうするんです?」
「俺たちも一緒に遊ぶんだ。バースを超え子供同士仲良くなった微笑ましい姿を演じればいい。演技力が必要だぞ。子供らしく、無邪気な感じだ」
「ふむ…。無邪気、ですか?」
「ハハハ!お前が一番苦手な分野かもなぁ。無邪気なシムチャンミン、笑えるww」
「もう!アナタは僕をからかう事が大好きだな!プン!」
ユノとチャンミンは、子供ながら大人を欺くことが好きだった。
特にユノは、時に大人よりも優れた頭脳と、回転の速さで、物事を解決に導く力があった。
時に子供であることを利用し、鮮やかに大人を欺いて見せた。
子供だとバカにしている大人たちを欺き、欺いている事にさえ気づかせない才能。
チャンミンもユノも、こういった頭を使った遊びが大好きだった。
最初はユチョン、ジュンスと共に4人で遊び、大人の目が消えた所でさりげなく二人にしてやる。
だが、チャンミンはどうも腑に落ちなかった。
何故、ユノはユチョンがジュンスを構うのに、こんなにも寛容なのか。
「ユチョンはいつもヘラヘラして分かりにくいがな。あいつにも苦労があるんだ」
「それは分かりますが、苦労というならユノ兄が一番苦労しているじゃないですか。あなたの存在のおかげで、ユチョンは楽をしていると思いますが」
「そんな事はない。ユチョンにはユチョンの苦労がある。チャンミンにもチャンミンの苦労があるように」
いつもそうだ。
ユノはチョン家の長男として生まれ、僕たちには理解できない程のプレッシャーの中で生きているはず。
だがユノは決してそれを口にしないし、弱音を吐いた事もない。
ユチョンや僕の事を一番に考え、理解してくれる。
「ユノ兄には、ユチョンにとってのジュンスのような存在は、いないのですか?」
「俺にはお前がいる、ユチョンがいる。それで十分だ。お前にもジュンスのような存在が出来ればいい。俺は全力で応援するからな!」
まるで太陽のように朗らかに笑うユノ。
生まれた時から、チョン家に尽くすよう厳しく育てられ、初めから影になることを強いられた人生に、やるせない気持ちになったこともある。
だが今は、ユノの傍にいられる事こそが僕の望み。
ユノの一番役に立つ人間になることが、僕の夢だ。
チャンミンは、ユノの前で片膝をついた。
「ユノ兄。僕は一生の忠誠をあなたに誓う。誰が何と言おうと、僕はあなたについて行きます」
ユノは目を丸くしたが、ニコッと笑って言った。
「あぁ。頼りにしてるぞチャンミン!俺は、お前がいれば何も怖くない、本当だ!」
「はい。僕も怖くないです。僕らはいつも一緒です!」
いつの間にか二人の会話を聞いていたユチョンが、飛び込んできた。
「いいな!僕も入れてユノ兄!」
「あぁいいぞ!俺達3人がいれば、きっと何でもできる。俺達はずっと一緒だ!」
「わぁい!」
輪になって肩を組む3人を、ジュンスがニコニコと笑って見ていた。
彼らは、この時の誓いが、大人になってもずっと続くとは、まだ知らなかった。
日にちも忘れてしまった、ある日曜日の教会での誓い。
雲一つない青空の下、4人はいつまでも笑っていた。
とうとう養子に行く日が来た。
12歳まで施設にいたのは長い方だ。
午前中に教会に行ってから、迎えの車に乗って、僕はこの地を去る。
最後のユチョンとの時間を、僕は笑顔で終わらせたいと、思っていた。
いつものように教会でもらったお菓子を食べる僕を、ユチョンがニコニコして見ていた。
「あ、そうだジュンス。今度ユノ兄たちと湖畔でバーベキューするんだ。一緒に行かないか?」
「へぇ~…楽しそう…」
「施設にはこっちから許可もらうから心配いらないよ。一緒に行こう?」
「…うん。行きたい」
「日にちが決まったら一番に知らせるね?楽しみだなぁ~♪」
「…うん。楽しみ」
それからもたわいない話をしながら、ジュンスは必死で涙をこらえていた。
ユチョンには自分の笑顔を憶えておいて欲しかったから、ニコニコと笑っていた。
「どうしたの?ジュンス。今日はやけに機嫌がいいね」
「ユチョン。いつもの、言ってくれる?僕の事、好き?」
「うん。大好きだよ。ジュンスは?俺の事好き?」
「好き。ユチョンが大好き。…忘れないでね…」
「当たり前じゃん。ジュンスは俺が好き、俺はジュンスが好き。絶対に忘れないよ!変なジュンス」
いつものように、ユノ兄たちの所へ走っていくユチョンの背中を見送った。
真っ白いシャツが太陽に光って眩しかった。
3人が並んで僕に手を振っている。
僕は、思い切り手を振り返した。
ばいばい…大好きなユチョン…元気でね。
僕の事…忘れないで…。
零れる涙と一緒に、背を向けた。
「ジュンス、ちゃんという事を聞いてしっかり働くんだぞ」
「はい。お世話になりました」
バン!と車のドアが閉まり、見送られないまま車は走り出した。
生まれてからこの場所しか知らなかったが、感傷的な気分にはならなかった。
ただ、流れていく景色をぼんやりと見ていた。
僕の、ユチョンのいない人生が…始まった…。
「ユノ兄!どうしよう!ジュンスがいなくなった!養子に貰われたって…」
「養子?」
「この前の日曜日に養子先に行ったって。なんであの時、僕に言ってくれなかったんだ!ひどいよっ!」
「もしかしたら、ユチョンに悲しい想いさせたくなかったのでは?」
「だからって!…うっうっ…ジュンス…僕、まだお別れも言ってないのに…」
ユノは優しくユチョンの背中を撫でた。
「お別れを…言いたくなかったんじゃないか?」
「どうして?」
「バイバイ、なんて寂しすぎるだろ。それにバイバイを言われてないって事は、まだサヨナラじゃないって事だ」
「…どうゆうこと?ぐすん」
「チャンミン!探すぞ」
「はい!ユチョン、泣いてる暇はないですよっ」
3人は、珍しく教会で配るお菓子を貰い、むしゃむしゃ食べながら作戦会議をした。
「施設に聞いても簡単には教えてくれないだろうなぁ」
「個人情報がうるさい世の中ですからね」
「賄賂使えばいいんじゃない?」
「バカ、ガキが使うと色々面倒だ。ここは不本意だが、秘書(大人)の力を借りるか…」
「でも秘書を使うと、あなた達の母親にバレますよ?そうなるとジュンスが危険です。本末転倒だ」
「だよな…どうしたもんか…」
「考えていても始まらない、オメガを養子にするのは、余裕のあるアルファの家が多いです。まずそこから探しましょう」
まだ子供の3人は、ジュンスを探すのに手間取ってしまった。
あっという間に時は過ぎ、2年が経ってしまった。
一生の忠誠をあなたに誓う
※※※
大人を欺くのが好きだったユノとチャンミン。頭が良いけれど悪い子供ですww
3人はまだ中学生、ジュンスの養子先を見つけられないのも仕方ありません。
この時から強く結ばれた3人の絆、チャンミンの誓いもここから始まっています。
諦める事に慣れてしまっているジュンちゃん(>_<)
ユチョンは諦めないで。